龍蘭帝国奇談夜話

平坂 静音

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夢花廃園 八

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 黄風は鼻白み、春玉はまたあらぬ方を見た。親子ほどに、いや、それ以上に年齢が離れているが、世に例のないことではない。
「……妹様は、そのご縁談を喜んでいらっしゃるのですか?」
 春玉の問いに、一瞬、東風は気色ばった。
「もちろんだ! 十年前、父が裏切り者の汚名を着せられたとき我が家はひどい目に合わされた。母は寝こみ、使用人たちの中には逃げ出す者もいた。当時私は十四、妹は七つで」
 往時のことを説明する東風の目は、怒りと悲しみのためか、熱っぽく潤んでいる。
「妹は遅くに出来た子で父に溺愛されていたのだ。どれほどの打撃だったか……。いやがらせに来た連中が塀をこわして襲ってきたとき、楊将軍のさしむけた私兵が我が家を守ってくれた。楊将軍はその後、真実を陛下に報告し、父の名誉を回復させ、私の出世も後押ししてくださった。妹も感謝している」
 感謝と愛とは違うのでは……。そう言いたげにひらいた唇を春玉は止めた。名家の結婚とは、しょせん恋愛感情でどうなるものではないのだ。
「それでは……早く問題を片付けないといけませんね」
「出来るか?」
「わたくしでは無理かもしれませんが、わたくしの師ならばすぐに解決できるかもしれません」
 春玉は被衣をずらして、笑みを見せた。

「お嬢様、あんなこと言ってしまっていいんですか?」
「ねぇ、黄風、人の話、噂話っていうのは、本当に不思議で奇妙よね」
 言いつのる黄風に春玉はそんなことを言う。
 きょとんとする黄風に、春玉は前を向いたまま歩きながら言葉をつないだ。
「なんだか、〝お話〟って、果実を盛った皿みたいじゃない?」
 これ、いかが? 美味しいわよ。と最初に誰かが果実を盛った皿をわたし、もらった人間は一口かじってみる。
 美味いと思った者はどんどん食べ、不味いと思った者はそれ以上手を付けず、捨ててしまうかもしれない。なかには、自分のところの果実を付けたし、別の人間におすそ分けする者もいるかもしれない。もらった者はまたそれぞれの感想にしたがって、捨ててしまったり、自分のところや、別からもらった果実を付け足したりして、他の人と分け合ったりするだろう。
 そうして、〝話〟という名の皿に盛られた果実という名の中身は、食べられたり付け足されたり、まぜ合わされたり、拒絶されたり、ときには皿から一つ二つこぼれてどこかへ転がっていってしまったり、誰かに盗まれてしまったりしながら、世に出回っていくのだ。
 そうしてあちこちで人々に貪欲に食べられたり、捨てられたりして、美味いと思った者も不味いと思った者もいつしか忘れてしまった後になって種が残り、どこかで根つき、後世に残っていくのだ。
 その噂話という物語の不思議さ、奇妙さを思うと、春玉は興味が尽きない。
「はあ……?」 
 聞いていて黄風は解ったような、解らないような複雑な表情になる。そして内心でこっそり呟くのだ。
(春玉お嬢様は、やっぱり変わっていらっしゃる)


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