龍蘭帝国奇談夜話

平坂 静音

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夢花廃園 九

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「という話なのよ」
 春玉が話し終えると沙蘭はゆっくりと目を閉じた。
「どう? 解る? ……今、見える?」
 沙蘭は瞑想するように目を閉じつづけた。
「見えないけれど……なんだか聞こえてきたわ。きっと春玉について来ているのね」

 嫌だと言った! 
 わしは嫌だと言ったのに、楊将軍はわしを殺したのじゃ! 
 確かにあいつはわしの名誉を回復させ、遺族の面倒も見てくれた。
 だが、それでわしのこの無念が消えるものか! あやつは卑劣な策士じゃ! 

 ――蔡副将軍の鬼、語る。
 春玉はふところから取り出した紙に、いそいで沙蘭が伝える言葉を書きだした。
 最初にその計画を考え出したのは楊将軍だったという。
 楊将軍は蔡副将軍にその案をつたえ、戦に勝つため、犠牲になって欲しいとたのんだ。死後にはかならず真実を伝え、名誉をとりなし、遺族の面倒もみると。
 だが、蔡副将軍はいやがった。彼は勝利よりも、死後の名誉よりも、今の己を惜しんだのだ。  ことわった直後、楊将軍の部下によって、彼の首と胴は切り離された。その首は裏切り者として兵卒たちの前にさらされ、投石や唾棄の目標にされ、やがて打ち捨てられた。 
 だが楊将軍はたしかに策士ではあったが、情がなかったわけではない。死後には約束どおり彼の名声を高めるよう尽力した。
 蔡副将軍は軍の勝利と祖国の為、自らすすんで犠牲になってくれたのだという彼の脚色した〝事実〟を皇帝につたえ、世に広めた。副将軍の遺児たちの後見もした。
(だからと言って、わしの無念が消えるか)
 亡霊は声なき声で訴えた。
 天に帰ることなくその魂は屋敷をさまよい、己の悲憤を家族に訴えつづけた。
 そのかもしだす怨念の瘴気に当たったのか、もとから身体の弱かった妻は他界した。彼女の方は息子の出世を見届けて、未練なく行くべきところへ行ったらしい。だが蔡副将軍はいっそう恨みをつのらせた。その恨みがいよいよ高まったのは、楊将軍が愛娘に求婚したときだ。
「それに関しては……、なんとなく理解できるわね」
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