龍蘭帝国奇談夜話

平坂 静音

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邪神礼賛 七

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「あら、秋月、きれいじゃない」
 場違いなほど陽気な声をだす華蓮が癪にさわる。
「なによ、こんな日にそんな顔しなくてもいいでしょ春花。お別れを言いにきたの」 
「来てくれてうれしいわ、華蓮。春花のことよろしくね」
 なにも華蓮にそんなこと言わなくても、と春花はそっと姉の衣の袖をひっぱったが、やんわり無視された。
「わたし、これから広間に顔を出してお役人に挨拶してこないといけないの。せっかくだから春花、あんたも来る? めったに食べられないごちそうがいっぱいあるわよ」
「けっこうよ!」
「いいじゃない、春花、行ってらっしゃい。わたしの分も楽しんできて」
 いやよ! と言おうとする暇もなく春花は華蓮に袖をひっぱられて石室から引きずりだされた。
「馬鹿ね、はやく来なさいよ。あんたがいっしょだと秋月は泣きたくても泣けないでしょ!」
 ずるずると石の廊下をひきずられるようにして歩き、やっと庭へ出たときには春花の方が泣いてしまった。 
「ここなら当分、だれも来ないわよ」
 花竹木石かちくぼくせきが趣味よく配された中庭は、宴の席も祭のにぎわいもとおく、ひっそりと土と木々のにおいに満ちている。月光が一筋ひとすじ(ひとすじ)、ぼんやりと色の抜けはじめた緑葉を照らす。
「ひどい……。どうして姉さんだけがこんな目に合わないといけないのよぉ」
「しかたないじゃない、人にはそれぞれ持って生まれた運というものがあるのだもの」
 わかったようなことを言う華蓮が心底憎らしい。
 華蓮のきらびやかな濃い紅色の衣、同色の高価そうな布靴ぬのぐつ、結いあげた髪をかざる蝶のかたちのかんざし、どれもが憎らしい。
 秋月をさらっていく憎むべき村の掟やしきたり、石室で見た恐ろしげな守り神がすべて固まってひとつになって、華蓮という娘の身体で目の前にあらわれてきたような錯覚がしてきた。
「そんなのおかしいじゃない。どうして姉さんだけが不運な目に合わないといけないのよ?」
「しかたないじゃない」
 しかたない? またもあっさり言われて、怒りが爆発した。春花は地団駄ふんだ。
「どうしてわたし、こんなつらい思いしないといけないのよ!」
「あんたって、本当に子どもね! それでわたしや秋月と二つか三つしかちがわないんだから。わたしがあんたの歳には……あら、ごらんなさいよ、あれ」
 いつのまにか二人はかなり歩いていたようだ。華蓮の指さす先を見て秋月は目を見開いた。
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