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邪神礼賛 九
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「それで、その妹は姉の身代わりになって生け贄になったのか?」
「うふふふ。それが、そこからがおもしろい話なのよ」
歌売り娘は今宵の客のために琴をつまびき、人気のうせた酒屋に今までとはまたちがう声音をしずかにひびかせる。
「わたしね、姉さんを助けてやりたかったけれど、華蓮も憎たらしかったの。姉さんと同い歳なのになんの苦労もせず、いつも綺麗な衣を着て美味しいものを食べて、みんなからだいじにされている華蓮がうらやましくて憎たらしくてたまらなかったの。だから、こっそり宴の席で華蓮の杯に眠り薬をいれてやったの」
一度まちがって毒茸を口にしたことがある春花は、それからは用心して村の薬師の老婆にいろいろ聞いて、薬草の勉強をしていたのだ。
最初は姉に薬草からつくった眠り薬を飲ませ自分が身代わりになるつもりだったが、華蓮に一服もってやり、意識をなくした華蓮を介抱するふりをして宴の席からつれだし、姉にもおなじ薬を飲ませ、眠ってしまったふたりを入れ替えた。
歳かっこうの似ているふたりだし、そのとき着ていた衣はよく似た色で、老いた神官や、巫女、神殿の召使には判別がつかなかったのだ。
さらに面紗をかぶせてしまえば従者の男たちにはまったく見分けがつかない。
春花は意識の朦朧とした華蓮を、姉がいるべきはずの石室に連れこんで椅子に座らせておいた。華蓮を姉の身代わりとして神の生贄にささげられるように仕組んだのだ。
おなじく意識がさだかでない秋月は、蓮華にあてがわれていた控えの室にとうまく連れ込んでかくまった。
ばれればただではすまないが、そこがしっかりしているようでも子どもで、とにかく後先のことなど考えず、姉を助け華蓮を困らせてやることしか頭になかったのだ。
「では、生贄にされたのは村長の娘なのか?」
男の問いに、ひびく声音はまた変わる。歌売り娘の目つきも変わった。
「そう。わたしはそうやってあの恐ろしい洞窟のなかへ入れられたの。秋月の代わりとして……。春花がまさかあんなだいそれたことをするなんて夢にも思わなかった。してやられたわ。まったく油断できない子!」
男は無言になって歌売り娘を見つめた。
「でも、すべてあの子の思惑どおりにいったわけじゃないわ。そうやってわたしにあてがわれていた室に秋月をつれていった後、どうなったか。気づいたときは、きっとあの子、死ぬほどおどろいたはずよ。……わたし、秋月が憎かったわ。わたしと同い歳なのに家族に愛され、いつもそばに可愛い妹がいる、清らかな秋月が」
ほそい指が竪琴の弦をはじく。薄暗い店内が、焼けた肉と香辛料の香と、もの悲しい音に浸されていく。
「わたしはね、十三の歳、ちょうどそのときの春花とおなじ歳のとき、都からきた役人をもてなすために、宴の夜、役人の寝所につれていかれたの。その次の年も。そしてその年も宴の夜には連中の寝所にほうりこまれるはずだったの。よくある話よ、役人や貴人の一夜のもてなしのために地方の名家の娘がさしだされるなんて」
かすかに歌売り娘の目がうるんで光る。
「うふふふ。それが、そこからがおもしろい話なのよ」
歌売り娘は今宵の客のために琴をつまびき、人気のうせた酒屋に今までとはまたちがう声音をしずかにひびかせる。
「わたしね、姉さんを助けてやりたかったけれど、華蓮も憎たらしかったの。姉さんと同い歳なのになんの苦労もせず、いつも綺麗な衣を着て美味しいものを食べて、みんなからだいじにされている華蓮がうらやましくて憎たらしくてたまらなかったの。だから、こっそり宴の席で華蓮の杯に眠り薬をいれてやったの」
一度まちがって毒茸を口にしたことがある春花は、それからは用心して村の薬師の老婆にいろいろ聞いて、薬草の勉強をしていたのだ。
最初は姉に薬草からつくった眠り薬を飲ませ自分が身代わりになるつもりだったが、華蓮に一服もってやり、意識をなくした華蓮を介抱するふりをして宴の席からつれだし、姉にもおなじ薬を飲ませ、眠ってしまったふたりを入れ替えた。
歳かっこうの似ているふたりだし、そのとき着ていた衣はよく似た色で、老いた神官や、巫女、神殿の召使には判別がつかなかったのだ。
さらに面紗をかぶせてしまえば従者の男たちにはまったく見分けがつかない。
春花は意識の朦朧とした華蓮を、姉がいるべきはずの石室に連れこんで椅子に座らせておいた。華蓮を姉の身代わりとして神の生贄にささげられるように仕組んだのだ。
おなじく意識がさだかでない秋月は、蓮華にあてがわれていた控えの室にとうまく連れ込んでかくまった。
ばれればただではすまないが、そこがしっかりしているようでも子どもで、とにかく後先のことなど考えず、姉を助け華蓮を困らせてやることしか頭になかったのだ。
「では、生贄にされたのは村長の娘なのか?」
男の問いに、ひびく声音はまた変わる。歌売り娘の目つきも変わった。
「そう。わたしはそうやってあの恐ろしい洞窟のなかへ入れられたの。秋月の代わりとして……。春花がまさかあんなだいそれたことをするなんて夢にも思わなかった。してやられたわ。まったく油断できない子!」
男は無言になって歌売り娘を見つめた。
「でも、すべてあの子の思惑どおりにいったわけじゃないわ。そうやってわたしにあてがわれていた室に秋月をつれていった後、どうなったか。気づいたときは、きっとあの子、死ぬほどおどろいたはずよ。……わたし、秋月が憎かったわ。わたしと同い歳なのに家族に愛され、いつもそばに可愛い妹がいる、清らかな秋月が」
ほそい指が竪琴の弦をはじく。薄暗い店内が、焼けた肉と香辛料の香と、もの悲しい音に浸されていく。
「わたしはね、十三の歳、ちょうどそのときの春花とおなじ歳のとき、都からきた役人をもてなすために、宴の夜、役人の寝所につれていかれたの。その次の年も。そしてその年も宴の夜には連中の寝所にほうりこまれるはずだったの。よくある話よ、役人や貴人の一夜のもてなしのために地方の名家の娘がさしだされるなんて」
かすかに歌売り娘の目がうるんで光る。
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