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海神異聞 九
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「よせ! どこへ行く。部屋から出るなと言ったはずだぞ!」
荒々しい声がひびいて力強い腕が紫苑の肩をつかんだ。
「は、はなして、サフランが、サフランが」
紫苑はせっかく手に入れた美しい宝石をみすみす失ってしまうような焦燥感で、いてもたってもいられない。なくしてしまうぐらいなら、いっそ、このままサフランといっしょに行きたいとすら思った。
「だめだ、おまえまで死んでしまうだろう!」
カイダスの声は怒りに大きくなった。
はがいじめにされている紫苑の目に、女神の手が、サフランの手にふれようとしている光景がうつった。
「サフランが、サフランが死んでしまう!」
「落ち着け、あの娘はもう死んでいるんだ。しっかりしろ、あれは亡者だ。七年前に死んだ東の国の姫だ」
「そうだ、たしかにサフラン姫だ。ほろぼされた小国の姫君だ。とらえられて帝国への戦利品として連れて行くことになっていた」
「そんな、そんな、ひどい……」
「地下に囚われていたのを見たとき、俺もなんて残酷なことだろうと思ったさ。だが帝国の命令だ。しかたなかったのだ」
「命令だったらなんでもするの? 罪もない不幸な女の子を鎖につないで敵地へつれていくの?」
亡国の姫君の故郷の方角から、光がさしはじめ、夜が終わろうとしている。
もはや女神もサフランの亡霊も、無数の魂もどこにも見えず、船は風の優しい愛撫を受けてゆるやかにうごいている。明日には大陸につくだろう。
「それが船乗りたちの、俺たちの仕事なのだ。サフラン姫は身も心も弱りきっていた……。あたりまえだ。故郷をほろぼされ家族を殺され、国も民も身分もうしなって、敵国へ連れていかれようというのだから……慰み者にされるために、生き恥をさらすためにな。船上で熱病にかかって亡くなったのは、いっそ姫にとって幸運だったかもしれない。食事もほとんどとらなかったから、自害ともいえるだろう。遺体は海にかえしてやったが、魂は船底をさまよっていたらしい」
カイダスの淡々としたしゃべり方が紫苑の神経をひっかく。
「ひどいや!」
荒々しい声がひびいて力強い腕が紫苑の肩をつかんだ。
「は、はなして、サフランが、サフランが」
紫苑はせっかく手に入れた美しい宝石をみすみす失ってしまうような焦燥感で、いてもたってもいられない。なくしてしまうぐらいなら、いっそ、このままサフランといっしょに行きたいとすら思った。
「だめだ、おまえまで死んでしまうだろう!」
カイダスの声は怒りに大きくなった。
はがいじめにされている紫苑の目に、女神の手が、サフランの手にふれようとしている光景がうつった。
「サフランが、サフランが死んでしまう!」
「落ち着け、あの娘はもう死んでいるんだ。しっかりしろ、あれは亡者だ。七年前に死んだ東の国の姫だ」
「そうだ、たしかにサフラン姫だ。ほろぼされた小国の姫君だ。とらえられて帝国への戦利品として連れて行くことになっていた」
「そんな、そんな、ひどい……」
「地下に囚われていたのを見たとき、俺もなんて残酷なことだろうと思ったさ。だが帝国の命令だ。しかたなかったのだ」
「命令だったらなんでもするの? 罪もない不幸な女の子を鎖につないで敵地へつれていくの?」
亡国の姫君の故郷の方角から、光がさしはじめ、夜が終わろうとしている。
もはや女神もサフランの亡霊も、無数の魂もどこにも見えず、船は風の優しい愛撫を受けてゆるやかにうごいている。明日には大陸につくだろう。
「それが船乗りたちの、俺たちの仕事なのだ。サフラン姫は身も心も弱りきっていた……。あたりまえだ。故郷をほろぼされ家族を殺され、国も民も身分もうしなって、敵国へ連れていかれようというのだから……慰み者にされるために、生き恥をさらすためにな。船上で熱病にかかって亡くなったのは、いっそ姫にとって幸運だったかもしれない。食事もほとんどとらなかったから、自害ともいえるだろう。遺体は海にかえしてやったが、魂は船底をさまよっていたらしい」
カイダスの淡々としたしゃべり方が紫苑の神経をひっかく。
「ひどいや!」
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