双珠楼秘話

平坂 静音

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焼きもち 一

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 輪花りんかは六歳のときに父を追うようにして亡くなった母を思い出して、ふと羨ましくなった。父親はいなくとも、こうやって祖母や母の愛や財に満たされ守られ、幸せに生きている令嬢が、とても恵まれた人に見えて羨まずにいられない。思えば自分とほとんど同い歳なのだ。
(私ったら、ひがんでる……?)
 輪花は人を羨むことなどもう諦めたはずだ。だが幼い頃には、近所の二親ふたおやそろった、そこそこの良家の娘たちを見ていると切ないものを感じ、またそういう娘たちが緑鵬りょくほうに親しげに話しかけたりしているのを見るとやきもきしたものだ。
 十二になった頃だろうか。輪花には忘れられない記憶がある。
 緑鵬の母に裁縫を習い始め、最初に練習がてら緑鵬の衣のつくろいを命じられたことがあった。輪花はその練習を、どこか心弾む想いで裏庭に面した室で励んでいたのだ。ちょうど今のように庭の木々が色鮮やかに日に映える季節のころだ。
「あら、輪花ちゃん、お裁縫しているの?」
 気づけば、当時、林家によく遊びに来ていた近所の娘が目を丸くして、まるで咎めるようなきつい目で輪花を見ていた。
「そうよ。小母おば様が教えてくださったの。見て、これ緑鵬兄さんの衣なのよ」
「ふうん」
 近所の娘……名はたしか香菊こうぎくといい、裕福な商家の娘だったが、実を言うと輪花は自分よりひとつ年上の彼女があまり好きではなかった。
 歳も近いせいがあって香菊はよく林家へ来ては何かと輪花に話しかけてくるが、輪花は彼女の目当てが実は緑鵬だということに気づいていた。子どもでもそういうことは解るものだ。
 それに香菊は、輪花のことを破産した家の孤児として見下しているようで、輪花もまた香菊の意地悪そうな細い目つきや、厚みのある頬や、やけに太い首などあまり可愛くないと内心馬鹿にしていた。また、似合っていないのに香菊はいつも深紅や桃色の派手な衣をまとっている。もしかしたらいつも紺色や褐色かちいろの地味な衣しか着せてもらえない輪花の僻みも、香菊への苦手意識の底に少しは混じっていたのかもしれない。
 林家は貧しくはないが、もともと質素を好む堅実な家風なので、あまり派手な衣は着せてもらえないのだ。奥方である緑鵬の母自身もつねに地味な衣で過ごしていた。
 当時輪花が好きだった遊び友達は、愛景あいけいという名の二つ年上の近所の娘であり、こちらは龍蘭では美人の条件となる白面細腰はくめんさいようの美少女で、輪花はずっと彼女に憧れていた。彼女は好んで青や緑の衣をまとう。それは涼やかで凛とした気風をただよわせ、輪花はいい意味で羨んでいた。自分もああいうふうになりたい、と。だが、
「知ってる? 愛景さんは、緑鵬さんのことが好きなのよ」
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