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祝言 一
しおりを挟むその日、呂家では朝から大変だった。
「今日は、金媛の祝言。手抜かりないように、皆心して勤めるように」
火玉が厨房まで顔を出し、二十人以上いる使用人たちを前にして訓示をたれた。
「呂家の名に恥じぬ式を執り行うのじゃぞ」
どん、と杖で床石を叩きそう宣言するように言うと、家令の盟宝と侍女頭の桂雲が、並んで頭を下げた。この二人は夫婦で、玉蓮が幼い頃から仕えていたそうで、もう二人とも初老の域に入っているが、動きに無駄がない。
特に妻の桂雲は、口調も動作もきびきびしていて、いかにも有能そうだ。火玉の厳しい目も、彼女を見るときだけは信頼になごやかに光っている。
「勿論でございます、大奥様。酒も料理も一流のものを用意しております。心してお婿様とご家族をお出迎えします」
「頼んだぞ」
桂雲におだやかな一言を残して火玉は背をむけた。高級そうな小豆色の絹の晴れ着の背は、老いの弱さなど微塵も感じさせず、堂々としている。
「さ、皆、心して仕事にかかるんだよ」
吊りあがり気味の目を厳しく光らせて、桂雲は張りのある声で指示を出した。
屋敷に来てまだ仕事に慣れていない輪花は大忙しだった。
とにかく広間の掃除や、什器の整理、家人の着物の支度など、先輩の女中たちに言われとことをやりこなしているうちに、門番が一足先に花婿の来着を告げる声が聞こえてきた。
「もうすぐ来られるぞぉー」
「ああ、大変。私たちもすぐ着替えないと。ほら、こっち」
一緒に仕事をしていた桂葉に手を引かれた。先輩の桂葉は輪花の教育係で、なにくれとなく世話をしてくれている。歳も近く、輪花はすっかり彼女を当てにしていた。
今日はめでたい日なので、女中たちも支給された晴れ着を着ることをゆるされており、輪花や桂葉があたえられた薄紅色の袍衣は、作りは簡素ではあるけれど、袖と裾のはしに花模様の刺繍がほどこされていてなかなか洒落ており、なお清純そうで、二日前にそれを見せてもらったとき輪花は少し嬉しくなった。
正直言うと、今まで輪花が着てきた衣のなかでは一番上等なものだったのだ。
「ほら、すぐ着替えて、着替えて」
桂葉に手を引かれて連れて行かれた小部屋で、輪花は他の女中たちと一緒に大急ぎで着替えた。
「だらしないなりをしていると、呂家の恥になるからね」
手早く先に着替えた桂葉は輪花の乱れた髪をなおしてくれた。その手つきは優しく、まるで姉のようだ。桂葉は今年十七とかで、輪花より二つ年上で気さくで、最初に使用人部屋で会ったときから、輪花にとても親切にしてくれている。
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