双珠楼秘話

平坂 静音

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祝言 二

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 緑鵬と別れた最初の夜は、さすがに輪花も心細くなって、夜には泣きたくなったが、そんなとき桂葉が優しく話しかけてきてくれた。きっと輪花の背が寂しそうに見えたのだろう。
「元気出しなさいよ。すぐここでの暮らしに慣れるわ。私がいろいろ教えてあげるから」
 その言葉通り、広い屋敷の間取りもわからずおろおろしている輪花の手をひいて、案内しながらいろいろと説明してくれた。
 呂家は広い。母屋となるのは玉蓮と金媛母娘の住む〝主殿しゅでん〟と呼ばれる棟だが、石橋を渡って東の建物に入ると、そこは火玉の住まいとなり、その建物を使用人たちは〝奥殿おくでん〟と呼び慣わしている。同じ敷地内にある建物であっても、料理などはそれぞれの厨房で別々にこしらえており、独立した二つの屋敷が並んでいるようなもので、主殿から奥殿へ行き来するだけでもかなりの運動となる。
 輪花が今までに見聞きしてきた金持ちとは格がちがう。だが、都の上流階級の屋敷は、たいていそういうものだという。
「でもお婿様が来られたら、玉蓮奥様は奥殿へお移りになられて大奥様とご一緒に住まわれるそうよ。主殿は金媛お嬢様とご新郎様にゆずられるのね」
 そして自分たちは、英風と金媛の若い夫婦に仕えることになるのだという。そうなると、玉蓮とはあまり会えなくなるのかと思うと、輪花は少し寂しくなった。
 会ってまだ間がないというのに、すでに輪花はあの牡丹の花のような美貌の主人に慕情のようなものを抱きはじめていたのだ。
「寂しいわね……」
 ぽつりと、そんな言葉を漏らしてしまう。
「べつに遠い所へ行かれるわけじゃないわ。奥殿に住まわれるだけよ。また、何かの御用で行くこともあるでしょうし」
 だが、奥殿の女中は主に合わせてか、年長者が多く、若い者はあまり呼ばれることもないという。
「その分、一所懸命、お嬢様――、いえ、若奥様とお婿様にお仕えすればいいのよ」
 そうだ、今日からは金媛のことを若奥様と呼ばなければならないのだ。
 思えば、自分と歳も変わらないのに、金媛は今日結婚して〝人妻〟となるのだ。輪花は奇妙な気分になったが、それでも手を休めずどうにか着替え終わった。
 華やかな衣をまとえるのは、やはり嬉しい。うきうきした気分で輪花は問いかけた。
「ね、私、変じゃない? きちんとしてる?」
「大丈夫よ」
 答えたのは桂葉ではなく、香玉こうぎょくという年上の女中だ。歳に合わせてか、輪花の薄紅色の衣にくらべると濃い紅色の衣で唇も濃く紅く染めている。
 後ろで束ねてある黒髪は豊かで、首から胸元にかけて白い肌が輝くようだ。輪花や桂葉の首筋まできっちりと肌を包みこむ型の衣とちがって、大人めいた型のその衣は、彼女の成熟した美貌を際立たせている。
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