双珠楼秘話

平坂 静音

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血の花 三

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 薄闇にも桂雲の顔色が変わっていくのが輪花にはわかった。
「誰かがわざとやったっていうわけかい?」
 桂雲は張りのある声で、詰問するように訊ねた。
「わ、私じゃありません!」
「誰がやったか心当たりないの?」   
 廊下に近づくと、桂雲の声は低くなった。
「わ、解りません。すいません」
「まったく、仕事中に転寝うたたねしてしまうなんて、しょうがない子だね」
 それに関しては弁解の余地がない。輪花は襟元に首をすくめた。
「まぁ、今回だけは大目に見てあげるよ。けれど、またこんな事があったら、そのときはただじゃおかないからね。大奥様に報告して、お仕置きしてもらうことになるからね」
 輪花は背が寒くなった。
 それは当然体罰で、杖や板でこっぴどく叩かれることを意味している。
 この時代、使用人というのは雇い主の所有物のようなもので、主人の怒りを買った使用人は酷い目にあわされても文句が言えない。
 生かすも殺すも主しだいなのだ。実際、手酷い仕置きを受けて命を失ったり、死にこそはしないものの、一生不自由な身体にされたあげく追い出され、物乞いになった人間の話もよく聞いたし、目にしたこともある。
 人に雇われるということは、その雇い人に命を預ける、いや、捕らわれるということなのだ。輪花はあらためてその事実を自覚して身体を震わせた。
(どうしょう? 怖くなってきた……。ああ、やだ)
 緑鵬のところに帰りたい。ついそう弱気に思ってしまって、あわてて首をふる。
(しっかりするのよ、輪花。もうおまえには帰る場所がないんだから)
 輪花は初夏の夜風を感じながら、必死に自分を叱咤し、桂雲の後を追った。

 室に戻ると、頬につたう涙を袖でぬぐいながら、輪花は桂雲を手伝って寝台を整えた。整えなおされた寝台を見なおして、やっと桂雲もしかめっぱなしだった眉をやわらげてくれた。
「これで大丈夫。まぁ、なんとかなるわ。もうさい家の方々もお帰りになられる頃だし……、まぁ、間に合って良かった」
 桂雲がそう呟いた瞬間、背後で扉がひらき、桂葉が心配そうに顔をのぞかせた。
「大丈夫?」
「なんとかね」
 桂葉に目をやった途端、桂雲の目つきが妙に鋭くなった。
「事情は輪花から聞いたけれど……、まさか桂葉、あんたが妙な事をしたんじゃないだろうね?」
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