双珠楼秘話

平坂 静音

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妙なる調べ 二

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 あからさまに唇を曲げて不快をしめす桂雲に、桂葉はさらに言いつのる。
「何よ、皆知っている事じゃない」 
 輪花は知らなかった。だが、呂家の者は皆知っているらしい。
「ええ、そうよ。あたしは別にその事を隠しもしていないし、恥じてもいやしないよ」
 桂雲は腕を組んで桂葉を睨みつける。口調もかなり雑な感じになって、雰囲気も変わったが、むしろそんなはすな態度を取っている今の桂雲の方が若々しく見えるから不思議だ。
 桂葉と向かい合うと、頭ひとつ分桂雲の方が高い。若い頃はさぞかし背格好の美しい妓女だったのだろう、と輪花のんきなことを想像してしまった。
 一瞬、桂葉は押されたように半歩ほど後退したが、悔しそうに叫んだ言葉は猛々たけだけしい。
「ええ、そうでしょうよ! そこで何人も客をとって、父親の知れない子を生んで、平気な顔をして生きてられる女ですものね」
「きゃっ!」
 叫んだのは輪花だった。自分が頬を打たれたような痛みを感じて。
「二度とそんな口聞くんじゃないよ!」
「……」
 桂葉は打たれた頬を手で押さえると、憎しみのこもった目を桂雲に向けた。
 向かい合って火花を散らしている女二人の向こうで、迦陵頻伽が奏でる聞こえるはずのない音曲が輪花には聞こえた気がした。だが、それは悲しそうな音色に感じられた。    

「あんた、あの二人が母娘ははこだって気づかなかったの?」
 使用人部屋で香玉こうぎょくに呆れたようにそう言われ、輪花は決まり悪くうなだれた。
 思えば桂雲、桂葉という名前や、似た顔立ちからして気づくものだろうが、仕事を覚えるのに忙しくて他人のことを気にしている余裕がなかったのだ。
「だって、桂葉、そんなこと一言も言わなかったから」
「まぁ、あんまり言いたくないんでしょうね」
 香玉は話しながらも髪をく手を止めない。簡素な白の寝衣に着替えていても、白いうなじからは匂うような色香がこぼれる。
(女中なんかよりも、香玉こそ妓女にでもなった方が向いているかも)
 悪気ではなく輪花はそう思った。
 事実、貧しい庶民の娘にとっては、妓女という仕事はそう悪くない。貧しい親は、少しでも娘の器量が良ければ、金持ちの妾か妓女になることを願う。食うや食わずの生活をするよりも、そっちの方がよっぽど恵まれた生活が出来るからだ。
 おそらくは桂雲もそういった貧しい家庭の娘だったのだろう。親に売られて妓楼に入り、そこで仕事をしているうちに桂葉の父親となる男と出会い、桂葉を生んだのだ。
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