双珠楼秘話

平坂 静音

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妙なる調べ 三

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「桂雲さんは顔も良かったけれど、頭も良くてね、妓楼で読み書きを習い、珍しいことにほとんど独学で算術も学んだそうよ」
「すごいですね」
 輪花は目を丸くした。
 妓女が読み書きにけているというのはよく聞くが、算術まで学んだ妓女というのは確かに珍しい。
 この時代、中流と下流の分かれ目は、手蹟算勘しゅせきさんかんに長けるかどうかだ。読み書き計算ができる――それも女人の身であれば、それは生涯の財産をもっていることになる。
「若いうちから、いつか妓楼を出て自分で身を立てようと考えていたんですって」
 それも珍しい話だ。妓女はたいてい金持ちの男に身請けされることを願うものだ。正妻は無理にしても金満家の側室や後妻におさまったら、まずまず幸せと言えるだろう。
「金持ちの側室や妾になっても、旦那に飽きられたらどうなるかわからない。それなら、ちゃんと自分で稼いで生きていけるようにしたかったんですって。で、こつこつお金をためて、自分の借金を自分で返して、晴れて妓楼を出たんですってさ」
 自立心に富み計画性のある妓女、というのもいるのだろう。たしかに桂雲ならそういうやり方で道を開いていきそうだ。
 ある意味、輪花は感心した。妓女というものは派手な格好をして酒席にはべり、男をたぶらかし金をもうける悪女という、世間一般の印象がかなり変わった。真面目で勤勉で、地道な妓女というのも存在するのだ。
「そ、それじゃ、桂葉のお父さんというのは?」
 そのことも気になって輪花は訊いていた。
 香玉はゆったりと首を振る。あきらかに意識しているその動作に、輪花は内心少しいらついた。
(なにも、私といるときまでそんなに色っぽくふるまわなくても……) 
「それは知らないのよ。子どもを生んだのは妓楼を出て……一年後ぐらいだったから。相手の男は妓楼の客だったのか、その後知り合った別の男なのか、ちょっと微妙なところね。まぁ、客だった男と妓楼を出てからも付き合いがあったのかも知れないけれどね」
盟宝めいほうさんとは違うの? 今の夫なんでしょう?」
「盟宝さんと会ったのはここへ働きに来てからよ」
「……それじゃ、桂葉はどうしてたの?」
「桂葉もつれて働きに来たのよ」
「え? そうだったの」
 そこで香玉はふりむくと、面白そうに笑った。
「子連れ、それも赤子を連れての奉公なんて珍しいんだけれど、大奥様が認めてくださったそうよ。意外といいところあるわね。けれどね……妙な噂もあったらしいわ」
「妙な噂って?」
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