双珠楼秘話

平坂 静音

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妙なる調べ 四

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 つい好奇心がわいて輪花は訊ねた。
「大奥様が桂雲さんにそれほど親切なのは、もしかしたら赤ん坊、つもり桂葉の父親は玉蓮奥様の婿なんじゃないかって」
「そうなの?」
 輪花はおどろいて声をあららげた。他の女中がいなくて幸いだ。
 香玉はのけぞるようにして笑った。
「あはははは。嘘に決まっているわよ。考えてごらんなさいよ、前の婿の子どもなら、血の繋がりはないんだから、わざわざ大奥様が桂葉を呂家に入れるわけがないわ」
「で、でも、金媛お嬢様とは異父姉妹ということにならない?」
「それなら尚更なおさら家には絶対入れないと思うわよ。下手したら財産を狙ってくるかもしれないじゃない」
 それは確かにそうだろう。
「まぁ、そういう事情で桂葉は赤ん坊の頃からこのお屋敷で使用人として育ったのよ。あの子が五歳になった頃だったか、桂雲さんが家令の盟宝さんと結婚したそうよ。聞いた話だけれどね。で、あの子は十三になった頃からここで正式に一使用人として暮らすようになったのよ。でも、母親が女中頭になって、義理の父親が家令だから、桂葉ったら、若いくせにいばっているのよ」
 いばってはいないと思うけれど、と輪花は言いかけたが、桂葉が香玉を心良く思っていないことを思い出して口を閉じた。香玉に対しては確かに少しきついのかもしれない。
「そんな事情があったなんて、全然知らなかったわ」
 すべて初めて聞く話だ。輪花は困惑がおさまると、桂雲の身のうえに思いを馳せてみた。
 母親は妓楼出身で、父親が誰だかわからず、今現在は別の男と夫婦として暮らしている。
 盟宝と桂雲は小さないながらも敷地内にある家で暮らしているが、桂葉は使用人部屋で寝起きしている。だから輪花も彼女が桂雲の娘だとは思わなかったのだ。桂雲に向かっても桂葉が「お母さん」と呼ぶところを見たこともない。そこには複雑な事情があったようだ。輪花はため息をついた。
「……でも、身近にお母さんがいるんだから、羨ましいわ」
「あんたのお母さんはどうしたの?」
 香玉が髪を梳く手を止めて訊いた。
「死んだわ。私が子どものときに」
 あえて実家の破産や父の自殺は語らなかった。
「あら、そう。私といっしょね」
「香玉のお母さんも亡くなったの?」
 香玉は首をふる。
「私が十ぐらいの頃に、男とできて出ていったわ」
「……お父さんは?」
 迷ったが、訊かないものかえって妙なので、おずおずと訊いてしまった。
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