双珠楼秘話

平坂 静音

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落花流水 一

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 そこで英風は言葉をにごして首をかすかに振った。
 ただ……。続きを待ったが言葉なく、英風は話題を変えるように庭石をとりまいて咲く薄桃色の花に目をむける。
「ああ、見事な花だな。これは……天竺牡丹てんじくぼたん(ダリア)だな」
「そうですね」
 英風はあらためて辺りを見わたし、感嘆の吐息をはいた。
「岩や庭石といい、池や花といい、どれも素晴らしいな。この庭自体が芸術品だ」
「本当にそうですね」
 輪花も深くうなずく。こんな地方でこれほど見事な庭園は呂家の他にはないだろう。村長や町長はおろか、県の知事のお屋敷だとて、これほどに洗練されてはいないと思う。二人は前後に並ぶようにして歩いた。
 輪花もまだ庭園をすべて知っているわけではなく、敷石のうえを歩いていくにしたがって、どんどん開けていく見知らぬ風景に心を吸いこまれそうになった。
 庭木がのびやかに広げる枝葉のはざまからしたたる木漏れ日が、やさしく二人の頭上に降りしきる。
「昨夜、少しだけ火玉殿、つまり義理のお祖母様からうかがったのだが」
 二人は池の上の石橋にまで来た。そのまま橋の上をすすむ。微風に水面みなもが揺れて、池に浮かぶ夏椿の白い花弁が一つ、二つふるえる。
 輪花はため息を吐いて、落花流水らっかりゅうすいの美景にみとれていた。
 落花流水には二つの意味がある。時のうつろいと、相思相愛だ。相反するような二つの意味をしめす、水にたゆたう花の情景に輪花の乙女心がうずいた。そんな輪花の想いには気づかず、英風は話しをつづける。
「呂家は郡王ぐんおうの血筋らしい」
 郡王というのは皇帝の孫息子のことである。
「何代か前の皇帝の孫が都を離れて田舎に居を求め、移り住んだのがこの屋敷なんだそうだよ」
 皇帝の血筋とはいっても、それほど名が知られてないということは母親の身分が低い、数ある皇子のうちのお一人だったのだろう。だが、それでも皇室の連枝れんしのその末の葉となると、あらためて呂家の品格や威厳を感じる。
「まぁ……どうりで。ご先祖は都の貴族だったとは聞きましたが」 
「それほど立派な家に婿入りしたからには、私も家名を汚さないように努めなければね」
 そう言う英風の表情は少しこわばっている。
「英風様なら大丈夫ですよ」
「だといいんだが。おや……」
 庭木の木陰で玉蓮がたたずんでいた。
 二、三歩進むと、そばに金媛がいるのも見えた。近くには侍女がひかえている。
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