双珠楼秘話

平坂 静音

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落花流水 二

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 あかい衣をまとった玉蓮と白い衣をまとった金媛がならぶと、それこそ真紅と純白の椿をならべて観賞しているようで輪花は胸がたかなった。二人とも衣のうえに薄手の袖なしの薄青うすあお色の胴着どうぎをかさねており、同じもので、親子で揃いの着物を着るところなど、本当に仲が良いのだとあらためて切なく思った。
「あら、これは、婿殿。それに輪花も。ご機嫌よう」
 玉蓮が笑って咄嗟に団扇うちわで顔を半分かくす。こういう子どもめいた仕草は幾つになっても若々しい。
 そばにいる金媛が無言で軽く膝をまげて会釈した。
 昨夜、初夜をむかえたばかりの夫婦だというのに、その礼儀正しい態度はひどくよそよそしく輪花には感じられるが、それが上流階級のやり方なのだろう。
「義母上、ご機嫌うるわしく。金媛も」
 理知的な英風の黒い瞳が初夏の陽射ひざしに一瞬きらめいたが、その視線が金媛に向けられると、すぐにめたものになったことに輪花は気づいた。
(うまくいったかと思ったのだけれど……)
 輪花は少しやきもきしながら、しばし二人のあいだにただよう白けたような雰囲気を感じた。
 英風はどう言葉をかけてよいのか、困惑している様子だ。輪花も世慣れてはおらず、こういうときどう口を挟むものか悩んだ。
 顔を伏せている金媛は不機嫌そうにすら見える。
(どうしょう? 私が何か口添えした方がいいのかしら? でも、何を言えばいい? お天気の話とか?)
 輪花がどうにか言葉をひねりだそうと口をあけたとき、その場のえた空気を察して年長者の玉蓮が先に言葉を発した。
「婿殿、ご覧ください、庭の花が綺麗に咲いておりますわ。この時期が一番美しいですわね。良ければ、ごいっしょに散歩しましょう」
「そうですね」
 玉蓮が案内するように先にすすみ、その後を英風、金媛とつづいた。金媛は新妻らしく顔を伏せがちにし、侍女に手を取られてゆったりしとやかに歩く。すこし間をおいて輪花は後を追った。
 呂家の庭は本当に広大だ。
 石畳の路をたどってゆくと、柳の葉がを浴びてきらめいているのが目に入る。等身大とうしんだいの獅子の石像が、まるで屋敷を警護するように置かれてあり、輪花の目を見張らせた。
「あちらの四阿あずまやで少し休みましょうか」
 玉蓮と金媛はこぢんまりとした四阿の石椅子に腰かけた。黒瓦くろがわら白壁しらかべの一室ほどのちいさな建物は、大きな洞門どうもんが左右にあり、風が吹きぬけ、涼しげだ。散歩に疲れたときや、季節を感じながらくつろぎたいときなどに利用されているのだろう。目を見張ったのは、壁一面に大きく彫られた美女だ。秘境で瞑想する天女というところだろう。輪花は感嘆の吐息をはいた。
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