50 / 140
姉妹の誓い 一
しおりを挟む「ねぇ、桂葉、金媛様、怪我でもなさったの?」
その日の午後、まだ夕暮れには充分余裕がある頃をみはからって、輪花は庭掃除をしていた桂葉に声をかけた。
やはり気になるし、怪我をしているのなら、手当てをしなくてはいけないのだからと自分で自分を説得して、桂葉に訊いてみた。なんといっても桂葉は金媛付きの侍女なのだから、彼女に確認しておいた方がいいだろう。
「怪我? 金媛様が?」
怪訝そうに眉をしかめる桂葉に、輪花は午前中に自分が見たものを説明した。
「あら、いやだ。どこかでぶつけたのかもしれないわね。すぐお薬を持っていかないと」
桂葉も知らなかったようで、あわてて箒を片付けると、階を上がっていく。
庭に面した室で何やら若い女主人に話しかけている桂葉の声が聞こえた。しばしして、憮然とした顔で桂葉が階を降りてきた。
「どうだった?」
「どうも、何も!」
桂葉は怒って毛を逆立てた山猫のようだ。気が短い方なのだ。
「お嬢さ、じゃなくて若奥様はお昼寝ちゅうで、枇嬋さんがしゃしゃり出てきて、そういうことは全部あたしがするから余計なことは口出しするな、ですって!」
「ふうん……。心配して言っているのにねぇ」
輪花はうなずいてから、桂葉をなだめるのに努めた。
「もう、いいわ。さ、つぎは寝室の掃除よ。それから夕餉の手配。することは沢山あるんだから」
寝室の掃除は輪花も手伝うことになっている。もう少ししたら書斎に詰めている英風にお茶を持っていくつもりだ。本当は側仕えはつねに主の声が届く距離で待機するものだそうだが、英風はそれでは勉学に集中できないからと言うので、輪花は他の仕事に精を出すことにした。
「本当は、わたしだって若奥様のお側についておくはずなんだけれど、あの婆ぁが邪魔するのよ。枇嬋ったら、若奥様付きは自分だけの仕事だと思い込んでいるのよ。これじゃ、わたしはただの下女じゃない」
呂家に来てまだ日が浅い輪花にとっては雑用も苦ではないが、長くから呂家にいた桂葉にとっては、仕事の内容に対してこだわりがあるらしく、掃除や水汲みをするのは不本意のようだ。
主人のすぐ近くにはべり、主人のための仕事を主とする側仕えは、屋敷の使用人のなかでもかなり特権的な立場になるらしい。一応、それなりに学もあり見栄えもよく機転もきく者が、使用人たちのなかから選ばれるのだそうだ。
(わたしも読み書きを習っていたらねぇ……)
輪花が英風付きになったと知らされたとき、そんなことを香玉が不満そうに漏らしていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる