双珠楼秘話

平坂 静音

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姉妹の誓い 一

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「ねぇ、桂葉、金媛様、怪我でもなさったの?」
 その日の午後、まだ夕暮れには充分余裕がある頃をみはからって、輪花は庭掃除をしていた桂葉に声をかけた。
 やはり気になるし、怪我をしているのなら、手当てをしなくてはいけないのだからと自分で自分を説得して、桂葉に訊いてみた。なんといっても桂葉は金媛付きの侍女なのだから、彼女に確認しておいた方がいいだろう。
「怪我? 金媛様が?」
 怪訝そうに眉をしかめる桂葉に、輪花は午前中に自分が見たものを説明した。
「あら、いやだ。どこかでぶつけたのかもしれないわね。すぐお薬を持っていかないと」
 桂葉も知らなかったようで、あわててほうきを片付けると、きざはしを上がっていく。
 庭に面した室で何やら若い女主人に話しかけている桂葉の声が聞こえた。しばしして、憮然とした顔で桂葉が階を降りてきた。
「どうだった?」
「どうも、何も!」
 桂葉は怒って毛を逆立てた山猫のようだ。気が短い方なのだ。
「お嬢さ、じゃなくて若奥様はお昼寝ちゅうで、枇嬋びせんさんがしゃしゃり出てきて、そういうことは全部あたしがするから余計なことは口出しするな、ですって!」
「ふうん……。心配して言っているのにねぇ」
 輪花はうなずいてから、桂葉をなだめるのに努めた。 
「もう、いいわ。さ、つぎは寝室の掃除よ。それから夕餉ゆうげの手配。することは沢山あるんだから」
 寝室の掃除は輪花も手伝うことになっている。もう少ししたら書斎に詰めている英風にお茶を持っていくつもりだ。本当は側仕そばづかえはつねに主の声が届く距離で待機するものだそうだが、英風はそれでは勉学に集中できないからと言うので、輪花は他の仕事に精を出すことにした。
「本当は、わたしだって若奥様のお側についておくはずなんだけれど、あの婆ぁが邪魔するのよ。枇嬋ったら、若奥様付きは自分だけの仕事だと思い込んでいるのよ。これじゃ、わたしはただの下女じゃない」
 呂家に来てまだ日が浅い輪花にとっては雑用も苦ではないが、長くから呂家にいた桂葉にとっては、仕事の内容に対してこだわりがあるらしく、掃除や水汲みをするのは不本意のようだ。 
 主人のすぐ近くにはべり、主人のための仕事をおもとする側仕えは、屋敷の使用人のなかでもかなり特権的な立場になるらしい。一応、それなりに学もあり見栄えもよく機転もきく者が、使用人たちのなかから選ばれるのだそうだ。
(わたしも読み書きを習っていたらねぇ……)
 輪花が英風付きになったと知らされたとき、そんなことを香玉こうぎょくが不満そうに漏らしていた。
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