双珠楼秘話

平坂 静音

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姉妹の誓い 二

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 輪花が英風付きになったと知らされたとき、そんなことを香玉が不満そうに漏らしていた。
 香玉ほど容姿が優れていればもう少し地位のある仕事も出来るだろうが、彼女はこの時代の庶民の女にしては珍しくはないが文盲なので、どうしても下働きに近い雑用の仕事しか与えてもらえないそうだ。
 桂葉は幸いなことに幼少期に義理の父にあたる盟宝めいほうから、初歩程度は読み書きを習っていたそうで、それは使用人としては充分な学問なのだが、輪花が簡単な詩文を作ることぐらいは出来ると、うっかり会った日にもらしてしまうと、目を悔しげに曇らせた。以来、輪花は香玉や桂葉の前ではあまりこの手の話をしないようにしている。
「食事の好みとか、好きな香、お召物なんかも全然教えてくれないのよ、あの婆ぁ!」
「桂葉ったら、声が大きいわよ」
 桂葉はかまわずぼやきつづける。
「このままじゃ、いつまでたっても私は一人前になれないわ。もっとも、あの婆ぁは、それが狙いなのよ。いつまでも自分だけが若奥様付きでいたいんだから」
「桂葉、桂葉、落ち着いて」
「ああ、悔しいったらないわ!」
 こういうとき、輪花は桂葉をどうなだめていいのかわからず、困り果ててしまう。付き合って日は浅いものの、桂葉のことは好きで、すっかり仲良くなり友達同士のつもりだが、桂葉のこの短気で激しい気性にだけはなかなかなじめない。
 短気なのはまだしも、桂葉はいったん怒り出すと長いのだ。なかなか怒りがおさまらず、そのことにこだわり続けている。香玉との仲がうまくいかないのも、どちらかといえば、香玉よりも桂葉の方に問題がありそうだ。  「……ごめん」
 しばらく怒り続けた後、桂葉はぽつりとそんな呟きをもらす。
「私って、本当に気が短いのよね」
 しょんぼりと褐色かちいろの衣の肩が下がる。今の桂葉はまるで五つの幼女のようで、とても輪花より年上だとは思えない。
「いいのよ……。でも、あまり怒らないで」
「うん。本当にごめん。ね、こっち来て」
 近くの杉の木の影に輪花を引っ張りこむと、桂葉はいつになく吊り上がり気味の瞳をきらめかせた。
「ねぇ、輪花、あんた私と姉妹になってくれない?」
「え? 私が?」
 この頃の習慣でよく友人同士は義兄弟、義姉妹の誓いをたてることがある。誓いを立てた者は、普通の友人以上には強い絆を持つことになり、家族も同然の関係となる。勿論、それは法的なものではなく、あくまでも当事者同士の口約束なので、ときには仲たがいして解消してしまったり、疎遠になってしまう場合もあるが、このときの桂葉の瞳は真剣で、輪花も彼女が本気で自分と義理の姉妹になりたいのだと実感した。
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