54 / 140
憂い顔の新妻 一
しおりを挟む夕刻、輪花は夕餉の席にはべっていた。円卓の上に並べられた料理の皿は豪華で贅沢なものだが、それを前にしている新妻はどこか浮かない顔をしている。
「どうした? 気分が晴れないのかい?」
英風もそれに気づいたようだ。
「いいえ……、あの、」
「お嬢様は少し御気分がすぐれませんの」
すかさず、女主の側にひかえていた枇嬋が口をはさむ。
英風は眉を寄せた。
「金媛、今夜はゆっくりと休むがいい」
「え?」
あわてて左右に首をふる。
「いえ……そんなことは、そんなに悪くはないのです」
言ってから白磁気のような頬を赤く染めた。
はたで聞いている輪花の方が恥ずかしくなってくる。こういうのを、当てられるというのだろうか。
(室を出た方がいいかしら……?)
内心自問したものの、卓をはさんで向かい側に立っている枇嬋は何とも思っていないようだ。
「お嬢様、このお菜を少し召し上がられませ。料理人が腕によりをかけて作ったものですわ。ああ、お気をつけて」
そう言って、料理を小皿に盛って、女主の側にすすめる。枇嬋の目には輪花は勿論、英風も映っていないかのようで、輪花は内心あきれた。
「何だか、まるで子どもに対するようだね」
英風も苦笑するしかなかったのだろう。
他愛もない軽口だが、新妻は恥ずかしそうに顔をうつむけ、枇嬋は白濁色の眉をしかめた。
「お嬢様はお身体が病弱なので、ずっとわたくしがこうしてお世話してきたのでございますよ。勿論、これからもずっとお世話させていただきます」
入り婿が余計な口を出すな、と言わんばかりの態度に輪花はあきれるのを通りこして腹が立ちそうだ。
(枇嬋さんたら、いくらなんでも言い過ぎだわ)
輪花はつい唇をとがらせてしまいそうになったが、英風の口調はやわらかだった。
「そなたのような忠義者が側にいてくれると、金媛も心強いだろうね」
そう言われて困惑したような表情が、いかにも風に揺られる花のような風情で美しい。
「私はもうお腹いっぱいだ。君はゆっくりと食べるといい」
輪花が驚いたことに、新妻は、先に席をたとうとする向かい側の夫に手を伸ばし、その袖をつかんだ。見ていた輪花は声をあげそうになった。
「あ、あの、お待ちください。お怒りにならないで……」
言いたいことをうまく言えなくて困り果てている幼女のようなその動作と表情に、英風もまた目を見張り、枇嬋ですら虚をつかれたように呆然とした顔になっている。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
君の左目
便葉
ライト文芸
それは、きっと、運命の歯車が狂っただけ。
純粋な子供の頃から惹かれ合っていた二人は、残酷な運命の波にのまれて、離れ離れになってしまう。
それもまた運命の悪戯…
二十五歳の春、 平凡な日々を一生懸命過ごしている私の目の前に、彼は現れた。
私の勤める区役所の大きな古時計の前で、彼は私を見つけた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる