双珠楼秘話

平坂 静音

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老女の閨 三

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 今日の火玉は饒舌じょうぜつだった。輪花は黙って聞き入っていた。
「それこそ世間の風には当てずに、屋敷のなかで深窓の令嬢として、私は七色なないろの絹や玉に包まれていつも大事にされていたのさ。だからといって、けっして甘やかされ放題だったというわけじゃない。書や琴、舞もみっちり学ばされた。そこらのありふれた我がままなお嬢さんとは違うよ」
 むきになって言う火玉は憎めなくて、輪花は微笑ほほえんだ。
「輪花、お前は甘やかされた娘が嫌いだろう?」
「え?」
 唐突とうとつにそんなことを言われて輪花は目を見張った。自分で意識したことはなかったが……、そうかもしれない。
 一瞬、香菊こうぎくの顔が頭に浮かんだ。 
(そうかもしれないわ……。香菊のことは大嫌いだった。なんの苦労もなく、いつも言いたい放題言って。少しも人の気持ちを思いやらない馬鹿な娘。そうだ、私はあの子が大嫌いだったわ。あの子をあんなふうに育てた、あの、よく似た母親も大嫌い)
 香菊のみならず、塾で会った裕福でいつも華やかな色合いの衣に身を包んで、ろくに勉強もせずお洒落や男の人のことばかり話していた、いかにも甘やかされた馬鹿な娘たちも、実は嫌いだった。だからこそ、彼女たちも輪花をうとんじ、遠ざけたのかもしれない。
 輪花のように、子ども時代を不当に奪われてしまった娘は、どうしても両親に愛され大事にされ、何の苦労もなく育てられた娘たちに偏見に近い敵意を持ってしまうのかもしれない。
 けれど、唇からもれた言葉は心に反していた。
「そんなことは、ありません……」
「嘘をお言いよ。内心では、うちの金媛のことだって、嫌いなんだろう?」
 輪花は真っ青になった。
「と、とんでもない! お嬢様のことは尊敬しています。あの、主人として、とても大事に思っています」
 火玉は頬をゆがめて笑った。
「また、嘘を言う。どうしたら尊敬なんか出来るんだい? おまえが掃除や水仕事をしている間、化粧して着飾って男を待っているだけの娘なんだよ。しかもあの娘は若いころの私とちがって、書や琴や舞に堪能たんのうというわけでもない。どれも昔の私の半分ぐらい、いや、それ以下さ」
「そんな……」
 自分の孫に対して随分な言い方だが、火玉の口調には悪意は感じられない。事実を事実として言っているだけなのだろう。
「いいんだよ、若い娘なのだから、自分より恵まれた娘を妬んだって仕方ない。まして、おまえのように美しく賢い娘なら、いっそう物事が不公平に感じられるものさ」
「そんな、そんなこと……!」 
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