双珠楼秘話

平坂 静音

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老女の閨 四

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 輪花はどう答えていいかわからず、ただ首を左右に振った。とんでもない、と叫びたいけれど、もしかしたらそうなのかもしれないと自覚している自分がいる。何よりも、火玉が自分のことを美しく賢いと思っていることに驚き、つなぐ言葉が見つからない。
「けれどね……」
 火玉は掛け軸の絵のなかの、過去の幻を見つめて、呟くようにつづけた。
「あの娘にはあの娘なりの重荷というものがあるんだよ」 
 あの娘とは、孫である金媛のはずだが、火玉の薄い黒色――というより灰色がかっている目は、相変わらず絵のなかのありし日の世界に向けられている。
「そ、それは、そうですね」
 大家の奥様として、この先、いろいろ責務も増えていくことだろう。名家の妻というのは、それなりに責任もあるものだ。
「ああ……なんだか、だるくなった。もう、お下がり」
 盆を手に、室を出ようとしたところで、呼び止められた。
「ああ、そうだ。明日は絵師が来るはずだから、来たら、ここへ通すように」
「絵師……ですか?」
「そうだよ。この絵を仕上げてもらおうと思ってね」
 ゆったりと寝台に身を横たえながら、火玉が物憂げに、呟くように語る。
「ずっとこのままにしておいたけれど、どうもこのままだと私の人生まで未完で終わってしまいそうでね。腕のいい絵師に頼んで、仕上げてもらうことにしたんだよ」
「はい。わかりました」
 輪花は目礼してから、廊下に出た。
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