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月の呪い 五
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「え? まさか」
咄嗟にそう言ってから、輪花はとなりに立つ桂葉を見た。桂葉は首をふる。
「聞いたことないわ。もっとも、そんな相手がいても香玉は私には言わないだろうけれど……。あ、でも、英風様、もしかしたら愛莉なら何か知っているかもしれません」
「愛莉? 一度だけ顔を見たことがあったが、たしか義母上付きの侍女だったかな?」
「侍女というか、まぁ、下働きもしていますが……。香玉とはけっこう仲良くしていたみたいで、時々二人で話しているのを見かけたことがあります。愛莉なら、何か聞いていたかもしれません」
「そうか……。愛莉に訊いてみよう。とにかく室に戻ろう」
三人で連れだって屋内に向かって行くと、ちょうど屋内への階の辺りに、ぼんやりと人影が見えた。玻璃灯篭の明りに照らされたその人影は、一瞬、紅い炎のように輪花には見え、気色ばむ。
近づいて行くと、そこに立っていたのは二人の侍女を従えた玉蓮だった。
さらに二人の侍女が愛莉と枇嬋だと知れた。愛莉は痩せた地味な女で、怯えたように目を伏せて誰とも顔を合わせようとしない。
「義母上、いらしていたのですか?」
「あなたの室へ行っていたのですよ」
いつもは奥殿で過ごしている玉蓮が、この騒ぎを聞きつけて英風に会いに来たという。
「いったい何事かと思って……。聞いた話では、香玉が死んだそうね。驚いたわ」
少しも驚いた様子もなく玉蓮は紅瑠璃のような唇から、さらりとその名をすべらせた。
「はい。私もびっくりしました。事情は今のところまだ判らないのですが、明日すぐに役場に知らせるつもりです」
「その必要はありません」
あまりにもきっぱりと言われて、英風は勿論、輪花もおどろいて玉蓮を見た。
「え、ですが、義母上、香玉は亡くなったのです。事故か自害かも判らないのですから、ちゃんと人を呼んで報告し、調べてもらわないと」
「まぁ、とんでもない! 下級役人がこの家のことを調べまわるなんて。香玉はおおかたお酒でも飲んで、あやまって池に落ちたんでしょうよ。あの娘は酒癖の悪いところがあるのよ。時々、厨房でも隠れてお酒を飲んでいたらしいわ。桂雲が度々注意したけれど、止めなかったというし。ねぇ、そうでしょう?枇嬋」
訊かれた枇嬋は頷いた。
「はい。さようでございます。どうせ今夜も盗み酒で酔っ払って、あやまって池に入ったのかもしれません。酒飲みというのは、そういうことをするものでございますからね。そういえば、少し前に厨房で桂雲とまた揉めておりましたからね……。腹立ちまぎれに酒を飲んで悪酔いしたんでございましょう。まったく、困ったものでございますわ」
枇蝉は嘆くように首をふった。
咄嗟にそう言ってから、輪花はとなりに立つ桂葉を見た。桂葉は首をふる。
「聞いたことないわ。もっとも、そんな相手がいても香玉は私には言わないだろうけれど……。あ、でも、英風様、もしかしたら愛莉なら何か知っているかもしれません」
「愛莉? 一度だけ顔を見たことがあったが、たしか義母上付きの侍女だったかな?」
「侍女というか、まぁ、下働きもしていますが……。香玉とはけっこう仲良くしていたみたいで、時々二人で話しているのを見かけたことがあります。愛莉なら、何か聞いていたかもしれません」
「そうか……。愛莉に訊いてみよう。とにかく室に戻ろう」
三人で連れだって屋内に向かって行くと、ちょうど屋内への階の辺りに、ぼんやりと人影が見えた。玻璃灯篭の明りに照らされたその人影は、一瞬、紅い炎のように輪花には見え、気色ばむ。
近づいて行くと、そこに立っていたのは二人の侍女を従えた玉蓮だった。
さらに二人の侍女が愛莉と枇嬋だと知れた。愛莉は痩せた地味な女で、怯えたように目を伏せて誰とも顔を合わせようとしない。
「義母上、いらしていたのですか?」
「あなたの室へ行っていたのですよ」
いつもは奥殿で過ごしている玉蓮が、この騒ぎを聞きつけて英風に会いに来たという。
「いったい何事かと思って……。聞いた話では、香玉が死んだそうね。驚いたわ」
少しも驚いた様子もなく玉蓮は紅瑠璃のような唇から、さらりとその名をすべらせた。
「はい。私もびっくりしました。事情は今のところまだ判らないのですが、明日すぐに役場に知らせるつもりです」
「その必要はありません」
あまりにもきっぱりと言われて、英風は勿論、輪花もおどろいて玉蓮を見た。
「え、ですが、義母上、香玉は亡くなったのです。事故か自害かも判らないのですから、ちゃんと人を呼んで報告し、調べてもらわないと」
「まぁ、とんでもない! 下級役人がこの家のことを調べまわるなんて。香玉はおおかたお酒でも飲んで、あやまって池に落ちたんでしょうよ。あの娘は酒癖の悪いところがあるのよ。時々、厨房でも隠れてお酒を飲んでいたらしいわ。桂雲が度々注意したけれど、止めなかったというし。ねぇ、そうでしょう?枇嬋」
訊かれた枇嬋は頷いた。
「はい。さようでございます。どうせ今夜も盗み酒で酔っ払って、あやまって池に入ったのかもしれません。酒飲みというのは、そういうことをするものでございますからね。そういえば、少し前に厨房で桂雲とまた揉めておりましたからね……。腹立ちまぎれに酒を飲んで悪酔いしたんでございましょう。まったく、困ったものでございますわ」
枇蝉は嘆くように首をふった。
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