双珠楼秘話

平坂 静音

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乙女の想い 一

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「そうだな、私もあれは悪い娘ではないと思う。そして相当、賢い娘だ」
    夕食前のこの時間、英風の私室に呼ばれた輪花が、今日一日自分の見聞きしたことを語り終えると、英風は感慨かんがい深げに想いを述べる。
「あの娘は、興味深いな。愚かさと軽々しさをわざと演じているところがある」
 やはり英風も気づいたようだ。
「込みいった話を、口が軽いように見せかけて私に喋って、屋敷の内情を伝えているのだ」
 そこで英風はふーっとため息をはいた。
「学問にばかりかまけていると、他のことが見えなくなってしまうものだなぁ……。この屋敷の財政状態がこれほど悪かったとは……」
 そのことは英風にとって相当の衝撃だったようだ。
「情けない話だが……、輪花、私にもちょっとした野心というか、希望はあったのだ。勉学にいそしんで、進士の試験に受かりたいという野心。それに都に出て名を上げたいという望み」
「それは……殿方なら当然ですわ」
 輪花は慰めるように言った。事実、知性に恵まれた男子がそう思うのは当たり前のことで、緑鵬もそうだった。
「こんなことは、君にしか言えないが、正直、この屋敷の事情をいろいろ知るにつけて……縁談を持ってきた人を恨んでしまった。自分はいいように騙されたのだと思ってしまったのだ」
 英風の色白の頬が赤く染まって見えるのは、円窓から差し込んでくる夕日のせいではなく自分を恥じてのことだろう。
「私は、案外、自分で思っていた以上に俗物だったのだ」
「そんな……」
 しょんぼりと肩を落とす英風に、輪花の胸は熱くなる。
「今夜、どんな顔をして金媛に会えばいいのか……。家のことは金媛は関係ないはずなのに。それに、金媛は、本当に私のことを想ってくれている」
 熱くなった胸が冷える。
「そうですね……。金媛様は素晴らしい方です」
「ただ……」
 英風はそこで迷ったように天井を見上げた。
「なんでしょうか?」
「正直、少し解らないところもあるのだ。……なんというのか、ときどき別人のようになるところがあるのだ。素直だと思った翌日には、不機嫌になったり、一途だと思ったら、冷淡そうに見えるときもある。不思議な人だと思う。たとえば……」
 英風は苦笑いした。
「まぁ、輪花、君だからあけすけに言うが、深く愛しあった次の日には、理由もなく不愉快そうな顔をしているときがあった」
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