双珠楼秘話

平坂 静音

文字の大きさ
87 / 140

乙女の想い 三

しおりを挟む
「何してるのよ?」
 先を行く英風をおもんばかってか、桂葉が小声でこっそり訊いた。輪花はばつの悪い思いでやはり小声でこたえた。
「英風様と少しお話していて…….ごめん、手伝わずに」
「いいわよ。あんたは英風様のお気に入りだものね」
 輪花は言い返そうかと思ったが、言葉が出ない。英風のお気に入りだと言われて喜んでいる自分がいる。だが、英風が自分を気に入って心をゆるしてくれている一番の理由は、自分もまた英風とおなじく他所者よそものだからだ。この屋敷では。
(でも、桂葉は私とちがうわ)
 幼いときから屋敷内でそだった桂葉は、やはり屋敷のなかの人間である。
(そうよ。桂葉も、愛莉あいりも……紅鶴こうかくだって、お屋敷の人間なのだわ)
 輪花よりもずっと長く屋敷に住み、屋敷のなかの人間関係をくぐりぬけて、屋敷の空気に染まって生きてきたのだ。
 輪花は今気づいた。彼女たちは当然自分よりも屋敷のことを知っている。
(知っているからこそ、出て行きたがっているのだわ。私の知らない何かを……、知っているか、少なくとも何か感じているんだわ)
 輪花はこうして一緒に廊下を歩きながらも、姉妹の誓いを交わした桂葉が、やはり遠い存在である気がして切なくなった。
「どうしたの? 元気なさそうね」
「だって……香玉があんなことになって」
 どうにか言いつくろった。
「そうね。……でも、香玉は……自業自得かもよ」
 びっくりした輪花に、桂葉は前方を行く英風の青い衣の背を見たまま告げた。
「いろいろ事情が解ったのよ。後で話してあげる」
 そんな言葉をささやきあい、一行が、金媛の待つ室はすぐそこ、という所まで来たとき、大声が庭に響きわたってきた。
「たのもうー! たのもう!」
 輪花と桂葉はびっくりして声が響いてきた方向へ目をやる。
「あの声は」
 そう言うと英風は、輪花が仰天したことに、いきなり欄干らんかんをのりこえて庭に降りた。
「あ、英風様、お待ちを」
 桂葉があわてて近くのきざはしを降りていく。輪花も夢中でその後を追った。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...