双珠楼秘話

平坂 静音

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絵師 二

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 火玉の老いて乾いた肌が、ほんのり赤く染まったのに輪花はびっくりした。 
 人が絵を描いたり、描いてもらったりしたがる理由が、輪花は少しわかってきた。絵に描くことで、人生のなかの一時ひとときを、永久とどめたいのだろう。絵のなかの火玉は永遠の乙女である。輪花は少し切なくなった。
(大奥様は今の呂家の窮状を知っているのかしら?) 
 知らないわけはないと思う。あの、おっとりした玉蓮やまだ若い金媛が、どれぐらい呂家の財政事情を理解しているか、仮に理解していたとしてもとても解決できるような問題ではない。となると火玉が一人で背負っていることになる。その火玉も老いて、最近は奥殿の自室だけで過ごすことが多いようだ。
 この先、呂家はどうなるのだろう。
 それを思うと輪花は背が寒くなる。
 絵のなかの乙女は、数十年後のこの状況を予想しただろうか。夢にさえ思いはしなかったろう。青春の甘い息吹いぶきのなかで、まだ見ぬ恋人を想ってまどろんでいる純情そうな美少女の姿を見つめ、輪花はやるせなくなった。
 彼女がやがて迎えた夫は、まだ若い彼女と幼い娘玉蓮を残して逝ってしまった。家の再興を願って期待をかけてむかえた娘婿は、これも妻と生まれたばかりの娘をおいて出奔しゅっぽんしたという。それは火玉のせいではないかと人は囁いているが、輪花には真偽はわからない。
 ただわかることは、大きな屋敷と富に守られていたと信じていた火玉の人生が、必ずしも他人が思っていたほど幸福なものではなかったということだ。貧窮していく家のなかで老いを迎える寡婦の心情とは、どういうものなのだろう。
「どうしたんだい? そんな顔をして? おやおや、この年寄りを哀れんでいるのかい?」
 火玉は笑いながら言うが、輪花はしんぞうが止まるほどに驚いた。この老女の洞察力は本当にあなどれない。
「と、とんでもございません!」
「いいんだよ。お前だって、この家にいたら、薄々うすうす事情が見えてくるだろう。そうさ、この家は……もう終わろうとしているのかもしれないね」
「そんな、終わるだなんて」
 輪花は火玉のあっさりとした口調に、かえってそれが現実として迫ってきていることを思い知らされて、悲痛な声を出した。
 そばの清鳳は賢明にも口を閉じて何も言わず、何事もないかのような顔をしている。
「いいんだよ。今更隠したって仕方ない。いずれ知れわたることだよ。この屋敷はすでに人手にわたっているんだ」
「お、大奥様……」
 輪花としては、どう答えていいかわからない。清鳳はやはり無言だ。
「私が死んだら、次の日にも屋敷もおまえたち使用人の命も、すべて債権者の手にわたることになっているんだよ」
「え……?」
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