双珠楼秘話

平坂 静音

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絵師 三

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 これは輪花には衝撃だ。
 ある程度の大きな家が売買されるとき、仕えている者も一緒に売りわたされるとはよく聞くが、まさか自分がそういう状況にあったとは、まったく知らなかった。
「お前、知らなかったのかい? お前はそういう約束でうちによこされたのだよ」
「そ、そんな……!」
 正直、呂家の財政がいくら厳しいとはいっても、どこかで他人ごとのように思っていた。それどころか、内心では、呂家が破綻すれば、自分は林家に戻れるのでは、と甘く考えていたところもあった。
「おまえだけじゃなくて、桂葉や桂雲も、盟宝も皆そうだ。私が生きている限りは、お前たちは私のもの。けれど、私が死んだら、新しい主のものになるのだよ」
「新しい主って……誰ですか?」
 英風の言っていた、性質たちの悪い金貸しのことだろうか。
「それはまだ言えないけれど、でも正直言うと、あまりいい主ではないだろうね。だからこそ、使用人のなかでも少しでも勘のいい者や、目端めはしのきく者は皆、どうにかしてこの屋敷から逃げ出そうとしているのだよ。けれどね……」  
 火玉はそこで微笑ほほえんだ。輪花が背をこわばらせるような、暗い微笑だ。
「逃げられやしないよ。お前、知っているかい? この屋敷は山の守り神様のものだって」
「え、いえ……」
 輪花は目をぱちぱちさせていた。
「山の守り神、私の母は、山姫様と呼んでいらしたけれど、山姫様は、いったん御自分のふところに入れたものは、決して離さないんだよ。どうしても出て行こうとしたら、その者は罰を受けるんだよ。香玉のようにね」
 香玉の名がでて輪花は息をのむ。
「お、大奥様、香玉が死んだ理由を、ご存知なんですか?」
 火玉は背をそらして笑った。
 少し普通ではない笑い方だ。輪花は近くに座ったままの清鳳に目をやったが、相変わらず無表情だ。
「馬鹿な娘だねぇ。あの女は私のみならず、いつも山姫様を怒らすことばかりする。だから、罰を受けて、ああなったのさ」
「玉蓮奥様は、酔って足をすべらせたのだろうと、おっしゃっていました」
 輪花の言葉に火玉はにんまりと笑う。
「ああ、そうさ。それも山姫様の思し召しさ」
 輪花はだんだんうすら寒くなってきた。もう火玉は普通の精神状態ではないのかもしれない。火玉がこんなふうで、玉蓮も金媛も当てにならないようでは、この屋敷は本当に終わりかもしれない。
「おやおや、そんな顔をして。安心おし。私が死んでも、屋敷はなくならないさ。山姫様の御守護のもとで、これからもずっとあり続けるよ。けれど……」
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