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疑惑 一
しおりを挟む清鳳に礼を言って主殿にもどってきた輪花は、さっそく愛莉に会おうと、今頃の時間帯なら厨房にいるのではと思って行ってみると、そこでは思いもよらないことが繰り広げられていた。
「だから、どうしたんだ!」
めずらしく盟宝が声を荒げて怒鳴っているのが聞こえ、戸口の辺りに立っている桂葉は苦い顔をしている。
「いったいどうしたの?」
輪花たちがそっと厨房のなかを覗きこむと、木の長方形の卓をはさんで、愛莉と盟宝が話しこんでいる様子だ。盟宝のとなりには桂雲もいる。
愛莉は泣いているようだった。
「今入ったら駄目よ」
「どうしたの? 愛莉がなにか失敗でもしたの?」
それで盟宝たちに怒られているのだろうか。
「……愛莉がね、香玉を殺したのかもしれないのよ」
桂葉が低い声で囁いた。
「嘘でしょう!」
輪花はびっくりして桂葉を見た。
ちょうどその後、厨房から愛莉の声が聞こえてきた。
「わ、私、なにもしていません。あの人が勝手に転んだんです」
「だけど、助けなかったんだろう? 正直にしゃべんなさいって。お前があの時刻、池の近くで香玉と言い争っているのを見た者がいるんだよ。言い争いの理由はなんだったんだい?」
桂雲の諭すような声も聞こえる。
「そ、それは、それは……香玉が何遍言ってもお金を返してくれないから」
思わず輪花は聞き耳をたてた。
「つまり、愛莉は香玉にお金を貸していて、その返済をめぐって香玉と言い争いになったというわけね。そして、酔っていた香玉を突き飛ばした。突き飛ばされた香玉は池に転んだと」
玉蓮は椅子に座ったまま、団扇を優雅に動かしつづけているが、さすがに長い眉は不快そうにしかめられている。
「まったく、私どもの監督不行届きで」
玉蓮のとなりには金媛がやはり同じように優雅に座っており、そのさらにとなりには枇嬋が立っている。三人を前にして盟宝と桂雲が膝をついて身をすくめている様子を、廊下から輪花は痛ましい想いで見た。そばの桂葉はむっつりとしている。
「それで、愛莉は?」
「はい、奥様。今はとりあえず納屋に閉じこめております」
香玉の遺体が置かれていた納屋である。深夜に英風とそこを訪れたことを思い出し、輪花は足元が冷えていく気がした。同時に愛莉に同情せずにいられない。
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