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疑惑 三
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「まったく、次から次へと、なんということかしら。……いい、あなたたちも我が家で働く人間として、よく考えて行動するようにしなさいよ。くれぐれも身を大事にしてね」
先ほどの氷のような表情と打って変わって、向けられた顔は、若い娘たちのことを案じる慈愛深き女主人である。
(でも……やっぱり玉蓮奥様は)
怖い人だと、輪花は思う。
外面菩薩内面夜叉という言葉を聞いたことがある。見た目は菩薩のように優しげだが、実は夜叉のように恐ろしいという意味で、女性に向けてよく使う言葉だが、玉蓮はまさにそれだ。
(なんだか、私、とんでもない所へ来てしまったみたい)
「どうやら私はとんでもない所へ婿入りしてしまったようだな」
ちょうどそのころ、まさしく英風も輪花と同じようなことを考えていた。
「まったく……。実の父親が危篤だというのに、伝えようとしないというのは、随分なやり方だな」
卓をはさんで向かい合う西破が憤懣やる方ない、というふうに言う。卓の上には下女が淹れてくれた茶の器がふたつ、湯気をたてて置かれてある。
「先に送ってくれた手紙は、運良く門の外を掃除していた紅鶴という娘が受け取ってくれたおかげで私の手に入ったのだが……。だが、おそらくあの屋敷の門番たちは私あての手紙や連絡は取り次がないように命じられているのだろう。もしくは、受け取っても、常に義母上か祖母殿のところへ廻されていたのだろうな」
ここは英風の室で、彼が家を出てからもそのままにしてある。書棚も卓もきちんと掃除してくれていたらしく清潔そうだ。そこに母の愛情を感じて英風はつい涙ぐみそうになった。
(母上には苦労をかけさせてしまった)
夜も更けてから実家につき、今更何しに来たという兄に事情を説明して納得してもらうのに骨が折れた。最初は弟を薄情だと散々なじっていた兄の秀風も、西破の口添えもあって、やっと怒りをほどいてくれたが、そうなると今度は呂家の仕打ちに怒りだした。
「いったいどういうことなのだ、それは? 仮にも婿の父親が死にかけているというのに、おかしくはないか?」
おかしいのだ。
明日にでも呂家に行って事情を問い正そうという兄をなだめて、とにかく父の寝室に向かうと、老母と近所の顔見知りの医師がついており、とりあえず持ちなおしたと聞いて、胸を撫でおろしたのだ。
兄にしたのと同じ説明をした母は、やはり眉をしかめた。
先ほどの氷のような表情と打って変わって、向けられた顔は、若い娘たちのことを案じる慈愛深き女主人である。
(でも……やっぱり玉蓮奥様は)
怖い人だと、輪花は思う。
外面菩薩内面夜叉という言葉を聞いたことがある。見た目は菩薩のように優しげだが、実は夜叉のように恐ろしいという意味で、女性に向けてよく使う言葉だが、玉蓮はまさにそれだ。
(なんだか、私、とんでもない所へ来てしまったみたい)
「どうやら私はとんでもない所へ婿入りしてしまったようだな」
ちょうどそのころ、まさしく英風も輪花と同じようなことを考えていた。
「まったく……。実の父親が危篤だというのに、伝えようとしないというのは、随分なやり方だな」
卓をはさんで向かい合う西破が憤懣やる方ない、というふうに言う。卓の上には下女が淹れてくれた茶の器がふたつ、湯気をたてて置かれてある。
「先に送ってくれた手紙は、運良く門の外を掃除していた紅鶴という娘が受け取ってくれたおかげで私の手に入ったのだが……。だが、おそらくあの屋敷の門番たちは私あての手紙や連絡は取り次がないように命じられているのだろう。もしくは、受け取っても、常に義母上か祖母殿のところへ廻されていたのだろうな」
ここは英風の室で、彼が家を出てからもそのままにしてある。書棚も卓もきちんと掃除してくれていたらしく清潔そうだ。そこに母の愛情を感じて英風はつい涙ぐみそうになった。
(母上には苦労をかけさせてしまった)
夜も更けてから実家につき、今更何しに来たという兄に事情を説明して納得してもらうのに骨が折れた。最初は弟を薄情だと散々なじっていた兄の秀風も、西破の口添えもあって、やっと怒りをほどいてくれたが、そうなると今度は呂家の仕打ちに怒りだした。
「いったいどういうことなのだ、それは? 仮にも婿の父親が死にかけているというのに、おかしくはないか?」
おかしいのだ。
明日にでも呂家に行って事情を問い正そうという兄をなだめて、とにかく父の寝室に向かうと、老母と近所の顔見知りの医師がついており、とりあえず持ちなおしたと聞いて、胸を撫でおろしたのだ。
兄にしたのと同じ説明をした母は、やはり眉をしかめた。
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