双珠楼秘話

平坂 静音

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疑惑 四

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「いくら大家とはいえ、そんな義理を欠いたことをするなんて……。ねぇ、英風、実をいうとお前が家を出てから、いろいろ噂が耳に入ってきてね……こちらの医師せんせいからも話を聞いて、気になっていたのだよ。言うとお父様によけいな心配をかけるし、秀風が騒ぐだろうから、家のなかでは何も言わないようにしているのだけれど……」
 中年の人の良さそうな医師は苦い顔をした。
「患者さんから偶然、呂家の噂を聞きましてね……。それがあんまりかんばしくないので、ついつい心配して、つまらんことを奥様に吹き込んでしまいました」
 それはだいたい西破や英風も聞いていた話だった。
「呂家は、なんといっても天子様の血を引く名家ですからな。あの家にまつわることは村の人は遠慮して何も言わなかったが、最近はそうでもなくなって、いろいろ人の口も軽くなってきたのですよ」
 医師は言いにくそうにそう言ったが、それはつまり、それだけ呂家の威光が消えてきたということだろう。そして聞かされた噂は、たしかに芳しくないものばかりだった。
 呂家の財政状態はかなり悪く、借金も多い。それも性質たちの悪い所から借りているらしいという事実。屋敷自体も抵当に入っているという。
 だが、英風が一番おどろいたのは、やはり医師が最後にした話だった。

「どうしたものか……?」
「なぁ、英風、もうあの屋敷に戻らない方がいいかもしれんぞ」
 西破の言葉に英風はまよった。
「そういうわけにはいかないさ。一応、婿となったからには婚家に責任があるし」
 英風の頭に浮かんだのは金媛の真珠色の白い肌と黒曜石のような瞳だった。だが、その瞳を思い出すと……。
(なんだろう? 何かがひっかかるのだが)
 英風は自分でもよくわからない疑問に悩んだ。
「なぁ、どうする? あの、医師から聞いた噂。本当だと思うか?」
 西破の問いに英風は唇を噛んですこし考えた。
「やっぱり調べてみたい。……呂家から逃げるわけではないが、しばらく帰るのを伸ばして、その噂の真偽を調べてみようと思うのだ。幸い、父も持ちなおしたし」
「そうか。そうだな。正直、好奇心かもしれないが、俺も気になる。俺も一緒に調べたいが、いいか?」
 親友の提案は、英風にとってありがたかった。。
「そうしてくれると助かる。呂家には、父上の容態が危ないのでしばらく帰れないと使者を出しておこう。そして、明日にでも調べに行こう」
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