双珠楼秘話

平坂 静音

文字の大きさ
104 / 140

散り花 三

しおりを挟む
(このお屋敷に来たときは、こんな所があったのだと驚いたけれど……)
 木々も池も、花も、庭石や岩、地面の玉砂利たまじゃりひとつひとつまでもが輝いて見えた。お伽話とぎばなしに出てくる夢の宮殿にまよいこんだ孤児のような気分になったものだ。事実、輪花は孤児だったが。 
 だが、夢のお屋敷やお城というものは、やはり夢の世界のもので、この現世うつしよにはあり得なかったことを、このあとも輪花は嫌というほど思い知らされることになった。

「輪花、おまえ納屋に愛莉あいりの様子を見に行ってくれないかい」
 桂雲がそう言って差しだした冷めた粥の椀がのった粗末な木の盆を受けとって、輪花は納屋へと向かった。
 納屋はちょうど主殿しゅでん奥殿おくでんのあいだ辺りから裏山へ向かって歩いた所に位置しているため、厨房からはかなり歩く。それも椀のなかの粥をこぼさないようにと気を使って歩かなければならないので、かなり時間がたってしまったが、ちゃんと食事を与えてやれるだけ良かった、と輪花は自分で自分をなだめた。どうしても、愛莉に済まないような気持ちになってくるのだ。
(愛莉の言っていたことが本当なら、香玉の死は彼女の責任じゃないのかも……。だったら、気の毒だわ)
 意識してあまり考えないようにしてきたが、玉蓮は愛莉を香玉殺しの下手人にして、早くこの件を片付けてしまいたいと望んでいるのだろう。屋敷のことは役場には届けないと言っていたが、それなら愛莉はどうなるのだろう。
つえで打たれるぐらいの体罰で済むのかしら)
 だが、それも厳しければ命にかかわることもあるし、身体が不自由になることもあり得る。考え出すと、盆を持つ手が震えてくる。
 やがて見慣れた納屋のまえに来ると、見張り役らしい下男が、所在なげに椅子代わりの丸太に腰かけていた。
「おお、ちょうど良かった。俺も朝飯を食ってくるから、そのあいだ番をしていてくれ」
 そう言い残して立ち去る下男を見送って、輪花は扉の前から声をかけた。
「愛莉、私よ。輪花」
 中でごそごそと身動きする音が聞こえる。
 輪花は積みかさねてある薪のうえに盆を置き、おそるおそる木のかんぬきをはずした。輪花にとってはかなり重たいが、どうにか外せた。
「……輪花?」
 泣きはらした顔の愛莉が眩しそうに、辛そうに顔をのぞかせる。 
「絶対に逃げたりしないでね」
 懇願するように言う輪花に、愛莉は必死にうなずく。
 輪花は気になったことを訊ねた。
「あの……用足しとかは?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...