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散り花 三
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(このお屋敷に来たときは、こんな所があったのだと驚いたけれど……)
木々も池も、花も、庭石や岩、地面の玉砂利ひとつひとつまでもが輝いて見えた。お伽話に出てくる夢の宮殿にまよいこんだ孤児のような気分になったものだ。事実、輪花は孤児だったが。
だが、夢のお屋敷やお城というものは、やはり夢の世界のもので、この現世にはあり得なかったことを、このあとも輪花は嫌というほど思い知らされることになった。
「輪花、おまえ納屋に愛莉の様子を見に行ってくれないかい」
桂雲がそう言って差しだした冷めた粥の椀がのった粗末な木の盆を受けとって、輪花は納屋へと向かった。
納屋はちょうど主殿と奥殿のあいだ辺りから裏山へ向かって歩いた所に位置しているため、厨房からはかなり歩く。それも椀のなかの粥をこぼさないようにと気を使って歩かなければならないので、かなり時間がたってしまったが、ちゃんと食事を与えてやれるだけ良かった、と輪花は自分で自分をなだめた。どうしても、愛莉に済まないような気持ちになってくるのだ。
(愛莉の言っていたことが本当なら、香玉の死は彼女の責任じゃないのかも……。だったら、気の毒だわ)
意識してあまり考えないようにしてきたが、玉蓮は愛莉を香玉殺しの下手人にして、早くこの件を片付けてしまいたいと望んでいるのだろう。屋敷のことは役場には届けないと言っていたが、それなら愛莉はどうなるのだろう。
(杖で打たれるぐらいの体罰で済むのかしら)
だが、それも厳しければ命にかかわることもあるし、身体が不自由になることもあり得る。考え出すと、盆を持つ手が震えてくる。
やがて見慣れた納屋のまえに来ると、見張り役らしい下男が、所在なげに椅子代わりの丸太に腰かけていた。
「おお、ちょうど良かった。俺も朝飯を食ってくるから、そのあいだ番をしていてくれ」
そう言い残して立ち去る下男を見送って、輪花は扉の前から声をかけた。
「愛莉、私よ。輪花」
中でごそごそと身動きする音が聞こえる。
輪花は積みかさねてある薪のうえに盆を置き、おそるおそる木の閂をはずした。輪花にとってはかなり重たいが、どうにか外せた。
「……輪花?」
泣きはらした顔の愛莉が眩しそうに、辛そうに顔をのぞかせる。
「絶対に逃げたりしないでね」
懇願するように言う輪花に、愛莉は必死にうなずく。
輪花は気になったことを訊ねた。
「あの……用足しとかは?」
木々も池も、花も、庭石や岩、地面の玉砂利ひとつひとつまでもが輝いて見えた。お伽話に出てくる夢の宮殿にまよいこんだ孤児のような気分になったものだ。事実、輪花は孤児だったが。
だが、夢のお屋敷やお城というものは、やはり夢の世界のもので、この現世にはあり得なかったことを、このあとも輪花は嫌というほど思い知らされることになった。
「輪花、おまえ納屋に愛莉の様子を見に行ってくれないかい」
桂雲がそう言って差しだした冷めた粥の椀がのった粗末な木の盆を受けとって、輪花は納屋へと向かった。
納屋はちょうど主殿と奥殿のあいだ辺りから裏山へ向かって歩いた所に位置しているため、厨房からはかなり歩く。それも椀のなかの粥をこぼさないようにと気を使って歩かなければならないので、かなり時間がたってしまったが、ちゃんと食事を与えてやれるだけ良かった、と輪花は自分で自分をなだめた。どうしても、愛莉に済まないような気持ちになってくるのだ。
(愛莉の言っていたことが本当なら、香玉の死は彼女の責任じゃないのかも……。だったら、気の毒だわ)
意識してあまり考えないようにしてきたが、玉蓮は愛莉を香玉殺しの下手人にして、早くこの件を片付けてしまいたいと望んでいるのだろう。屋敷のことは役場には届けないと言っていたが、それなら愛莉はどうなるのだろう。
(杖で打たれるぐらいの体罰で済むのかしら)
だが、それも厳しければ命にかかわることもあるし、身体が不自由になることもあり得る。考え出すと、盆を持つ手が震えてくる。
やがて見慣れた納屋のまえに来ると、見張り役らしい下男が、所在なげに椅子代わりの丸太に腰かけていた。
「おお、ちょうど良かった。俺も朝飯を食ってくるから、そのあいだ番をしていてくれ」
そう言い残して立ち去る下男を見送って、輪花は扉の前から声をかけた。
「愛莉、私よ。輪花」
中でごそごそと身動きする音が聞こえる。
輪花は積みかさねてある薪のうえに盆を置き、おそるおそる木の閂をはずした。輪花にとってはかなり重たいが、どうにか外せた。
「……輪花?」
泣きはらした顔の愛莉が眩しそうに、辛そうに顔をのぞかせる。
「絶対に逃げたりしないでね」
懇願するように言う輪花に、愛莉は必死にうなずく。
輪花は気になったことを訊ねた。
「あの……用足しとかは?」
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