双珠楼秘話

平坂 静音

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散り花 四

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「大丈夫。ここ、奥に厠があるから」
 愛莉は言いにくそうに告げた。
「ああ、そうなの。知らなかったわ」
 他人ごとながら輪花は心配していたのだ。
「……ひっく……お屋敷では三年に一度、山で祭儀を行うことがあるの」
 しゃべりながら丸太に腰かけると、愛莉はふるえる手で椀を受けとる。落とさないか輪花は心配になった。
「そのときは人手がいるから、流れの男を雇うこともあって……、そういうとき、寝泊りする場所に使うために設えてあるのよ」
「祭儀……?」
 ひっく……。泣きながら愛莉は粥をすする。見ていて輪花は痛ましくてならない。もともと地味な顔立ちだったが、それでも以前は女らしい優し気な魅力をたたえていた顔が、たった一晩で老女のようにやつれてしまっている。
 気を紛らわしたいのだろう。愛莉はこんなときだというのに饒舌じょうぜつだった。
「こ、ここのお屋敷は仙女を守り神としておまつりしているの。三年に一度、その仙女様のほこらを開けて、お礼のためにお祈りをあげるらしいの……私は見たことないけれど。こ、このお屋敷は女系だから、仙女さまを信心しているのよ」
 龍蘭帝国では国家的な信仰というのがなく、皇室は仏教を信仰しているが、それはあくまでも直系皇族のみが守るべき信仰で、特に国民に強制はしていない。
 民はそれぞれ仏教、道教、またはその土地の氏神や土俗の精霊を自由にえらび信仰の対象としている。家によっては独自の守り神をあがめるところもあれば、仏教を信仰しながら道教の教えを生活に取り入れている者もいる。まさに家の数、人の数だけ宗教があるといっても過言ではない。
 そして呂家ではその仙女を守り神として祀っているようだ。
 火玉の言っていた山姫様というのは、その仙女のことなのだろうと輪花は見当をつけた。
「ああ、輪花、私どうなるの? まさか殺されるの?」
 愛莉は汚れた顔に新たな涙をながして訊いてきたが、輪花には答えようがない。
「わ、わからないわ……」
「私、本当に何もしていないのよ! 確かに香玉のことを突き飛ばしたけれど、そのとき香玉は本当に生きていたのよ。私、何もしていないのよぉ!」
 嘘を言っているようには見えない。
「泣かないで、愛莉。私には何も出来ないけれど、とにかく英風様が帰ってこられたら、お願いしてみるわ」
「英風様に頼んでも無駄よ。お屋敷のことは奥様、大奥様がお決めになるですもの。……お願い、あなた、たびたび大奥様のお部屋に呼ばれていたじゃない? どうか大奥様にお口添えして。私、本当に無実なのよ。香玉は酔っぱらって自分で転んだにちがいないわ。あの人、ときどき変だったもの」
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