双珠楼秘話

平坂 静音

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散り花 五

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「変?」
 愛莉は泣きじゃくりながら頷いた。
「そうよ。夜になると、酔っぱらってふらふら廊下を歩いていたりしていたもの。あなたは夜は早目に寝ていたから気づかなかったけれど……。あれ、もしかしたら酒毒しゅどく(アルコール中毒)に染まっていたんじゃないかって桂雲だって疑っていたのよ。死ぬ少し前なんて昼間だって、時々ぼんやりしていたし。だから、桂雲はいっそう香玉に厳しかったのよ」
「そ、そうなの?」
 輪花は愛莉の言葉に納得し、さらに、この納屋のなかで英風が言った言葉を思い出した。
(そうだわ、たしか英風様は、あのとき、)
 香玉の遺体からは、酒の匂いはしないと言っていたはずだ。
「ねぇ……、お願いよ。私、このままだと本当に下手人にされて殺されてしまうわ」
「そんな……」
「奥様たちから見たら、私たちの命なんて犬か猫みたいなものよ。仮に私がお仕置きされて打ち殺されたとしても、御家おいえのことだからと村の役人たちだって何も言わないわ……。粗相をした使用人が殺されようがどうなろうが、役人たちの知ったことじゃないもの。お屋敷勤めの使用人には、命を主に握られているようなもんなんですものぉ」
 愛莉が泣きじゃくりながら吐き出す言葉は輪花から体温を奪っていく。
 確かにこのままだと愛莉は本当に殺されてしまうかもしれない。
 輪花は昨夜の玉蓮の冷ややかな目を思い出した。あの目を見て以来、おだやかで使用人にも優しい奥様という玉蓮の印象はすっかり変わってしまった。
 愛莉が本当に香玉を殺していようがいまいが、玉蓮は愛莉のせいにしておいて問題をさっさと片付けてしまいたいのだ。呂家の体面を守るためなら愛莉の命なぞ、本当に犬か猫ほどのものなのだろう。あらためて輪花は首筋が寒くなった。
「大奥様に頼んでみるわ」
「ほ、本当?」
 絶望一色だった愛莉の目に、ほんのわずかな希望が光る。
「玉蓮奥様は聞いてくださらないだろうけれど、大奥様なら少しは耳を貸してくださるかも」
 本当のところ、火玉だとて何を考えているのか輪花にはわからないが、少なくとも玉蓮よりは話が通じそうな気がするのだ。特に今は絵師の清鳳せいほうが通ってきているせいで機嫌がいい。
「お、おねがいよ、輪花。一生、恩にきるわ」
 愛莉はほそい指で必死に輪花の褐色かちいろの袖にすがってきた。輪花の胸に、年下の自分を頼りにしてくる愛莉に対していっそうの憐憫の情がわいてくる。その弱々しい指を輪花は優しくつつみこんでやった。

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