双珠楼秘話

平坂 静音

文字の大きさ
137 / 140

再出発 一

しおりを挟む

 それからしばらくは、英風にとっては目のまわるように忙しい日々が続いた。村の役場や事件をあつかった町の役場に連日かよい、英風自身も事情を何度も説明させられ、残された銀媛のために嘆願し、屋敷を抵当にとっている黄呆殷おうほういんと対談し、話しあい、伝手つてをたよって高位の役人たちにも頼みこみ、どうにか屋敷や土地財産すべてを手放すことで借金の大方を清算した。銀媛も、特別なはからいで売られることはまぬがれたが、残った幾らかの借金のために妓女となることが決まった。これは当人が要望しており、あずけられる妓楼は都の《宝菊楼》ということになった。
 銅玉が、自分が責任持って面倒を見ると言い切ったのだ。それに銀媛は歌がうまく、これなら今からでも妓楼で歌い手として売れるだろうという。
 この先、銅玉と銀媛の関係がどうなるかわからないが、最後に英風が役場で銀媛と、彼女をむかえに来た銅玉の二人を見たとき、目の見えない銀媛を気遣う銅玉と、それに頼るような銀媛の様子は、まるで気心の知れた友人同士のようだったと輪花は聞かされた。やはり血は水より濃いようだ。
「でも、英風様、英風様はどうなさるのですか?」
 呂家を出る最後の日、輪花と英風はそれぞれのささやかな荷物を持って、西破がむかえに来るのを門前で待っていた。だんだんと強くなってきた陽射しが二人の頬を焼く。
「私は、前から決めていたのだが……試験のための勉強よりも、医学を学びたいと思っているのだ」
「医学ですか?」
「うん……実は、すでに教えを乞う師も決めているのだが……、良ければ輪花、おまえも来ないか? その家でも女中が必要だと言っていた」
「い、いいんですか?」
 それは願ってもない申し出だ。
 一応、林家では戻ってきてもいいと言ってくれていたが、輪花は気がすすまなかった。
 緑鵬の許嫁者が決まったことを知ったからだ。しかもその娘はすでに林家に住んで、花嫁修業をしながら緑鵬を待つという。輪花は否応なしに彼女と顔を合わせることになるだろうし、下手したら彼女付きの女中という立場にされるかもしれない。それは、考えるだけで輪花の乙女心をさいなんだ。そうなった自分を想像すると、ほんのすこし枇嬋の気持ちがわかる気さえする。
 勿論、緑鵬はこの一件が世間で噂になっていることを知って、輪花のことを案じ、慰めの手紙も送ってくれたが――その手紙で自身の婚約も平然と知らせてくれたのだ――、輪花は気が滅入って仕方ない。
(しょせん、緑鵬兄さんにとって私は妹のような存在に過ぎないんだわ)
 輪花に迷いはなかった。
「い、行きます! お願いです、私もそこのお宅へ連れて行ってください」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...