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再出発 一
しおりを挟むそれからしばらくは、英風にとっては目のまわるように忙しい日々が続いた。村の役場や事件をあつかった町の役場に連日かよい、英風自身も事情を何度も説明させられ、残された銀媛のために嘆願し、屋敷を抵当にとっている黄呆殷と対談し、話しあい、伝手をたよって高位の役人たちにも頼みこみ、どうにか屋敷や土地財産すべてを手放すことで借金の大方を清算した。銀媛も、特別なはからいで売られることはまぬがれたが、残った幾らかの借金のために妓女となることが決まった。これは当人が要望しており、あずけられる妓楼は都の《宝菊楼》ということになった。
銅玉が、自分が責任持って面倒を見ると言い切ったのだ。それに銀媛は歌がうまく、これなら今からでも妓楼で歌い手として売れるだろうという。
この先、銅玉と銀媛の関係がどうなるかわからないが、最後に英風が役場で銀媛と、彼女をむかえに来た銅玉の二人を見たとき、目の見えない銀媛を気遣う銅玉と、それに頼るような銀媛の様子は、まるで気心の知れた友人同士のようだったと輪花は聞かされた。やはり血は水より濃いようだ。
「でも、英風様、英風様はどうなさるのですか?」
呂家を出る最後の日、輪花と英風はそれぞれのささやかな荷物を持って、西破がむかえに来るのを門前で待っていた。だんだんと強くなってきた陽射しが二人の頬を焼く。
「私は、前から決めていたのだが……試験のための勉強よりも、医学を学びたいと思っているのだ」
「医学ですか?」
「うん……実は、すでに教えを乞う師も決めているのだが……、良ければ輪花、おまえも来ないか? その家でも女中が必要だと言っていた」
「い、いいんですか?」
それは願ってもない申し出だ。
一応、林家では戻ってきてもいいと言ってくれていたが、輪花は気がすすまなかった。
緑鵬の許嫁者が決まったことを知ったからだ。しかもその娘はすでに林家に住んで、花嫁修業をしながら緑鵬を待つという。輪花は否応なしに彼女と顔を合わせることになるだろうし、下手したら彼女付きの女中という立場にされるかもしれない。それは、考えるだけで輪花の乙女心を苛んだ。そうなった自分を想像すると、ほんのすこし枇嬋の気持ちがわかる気さえする。
勿論、緑鵬はこの一件が世間で噂になっていることを知って、輪花のことを案じ、慰めの手紙も送ってくれたが――その手紙で自身の婚約も平然と知らせてくれたのだ――、輪花は気が滅入って仕方ない。
(しょせん、緑鵬兄さんにとって私は妹のような存在に過ぎないんだわ)
輪花に迷いはなかった。
「い、行きます! お願いです、私もそこのお宅へ連れて行ってください」
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