あの花の盛りに

平坂 静音

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「あたしはほとんど覚えていないんだけれど、祖父母や両親はその子を知っているの。祖父母の近所に住んでいる子で、祖父母の家にもよく出入りしていたのよ。田舎では、お祭りとかお葬式とかで出す料理を、近所の主婦があつまって作る習慣が残っていてね。祖父母の家は、そういうときよく近所の人のあつまり場みたいになっていたのよ」
 ふーん、という声があがる。
「それに、祖母はお茶の先生もしていてね、その高校生の女の子は祖母の弟子でもあったの。それで当時、週一日は祖父母の家に来てお茶を習っていたのよ。勿論、失踪時もね」
 尚彦もわたしも、俄然がぜん、好奇心がわいてきた。白けた顔をしていた数人の他の生徒たちも、表情が変わってきた。
「だから祖父母の所にも警察が来ていろいろ話を聞いていったようだけれど、特になんの手がかりもなかったと思うわ」
「……その女の子、どうなったんですか?」
「依然、行方不明のままよ。もう二十年以上も前の事だから、もし生きていたら三十代……四十になったからならないかぐらいかしらね。どこかで生きていたらいいんだけれどね」
 菅原教授は思案気にため息をついた。すぐ側にいた私は教授のニコチン臭い息に眉をひそめそうになったけれど、なんとか表情をとりつくろって、思いきって訊いてみた。
「その人、名前はなんて言うんですか?」
 さすがに教授は、悩むように首をかしげた。
 忘れてしまったのではなく、言っていいものかどうか迷っているのだろう。
「うーん。ここだけの話よ。苗字は、菅原。おなじ姓だけれど、べつに親戚じゃないわ。その地方は同姓が多くてね」
「名前はね……加奈かな。加奈ちゃん、加奈ちゃん、とよく祖母が呼んでいたのを覚えているわ。顔はほとんど記憶にないんだけれど、わたしも一度か二度は会っていたみたい」

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