あの花の盛りに

平坂 静音

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「なんだか、面白い話だったな」
「そう?」
 帰り道、尚彦と二人ならんで歩いている。
 日はすっかりかげってしまって、辺りの見慣れた住宅街の風景が妙に物悲しく見えるのは、一人暮らしをはじめて最初の秋をむかえるせいかな。
 ビニール袋を下げた買い物帰りの主婦や、家路をいそぐ小学生の子ども。行き交う人は皆家族がいて、しっかりとこの地に根を張って生きているけれど、わたしは宙に浮いたワンルームのマンションで、まだこの街に根付くことなく、せわしい都会の風にふりまわされてる。
「なぁ、田中さ……、じゃなくて、春菜、今日はバイト、入ってるのか?」
「うん。六時から」
 実をいうと急がないといけないのだけれど、もうすこし尚彦とこうしてゆっくり歩きたい。
 薄暗くなっても尚彦の目は輝いている。わたしは胸がときめいた。大学に入ってから知り合って半年以上たっただろうか。
 男の子と名前で呼びあう付き合いをしたのはこれが始めてだ。
「あれから検索してみたらさ、出てきたんだ、菅原加奈」
 一瞬、なんのことかと思ったら昼の話の続きか。わたしはちょっと興ざめしながらも、好奇心にかられた。
「どうだったの?」 
 尚彦は手にさげていた鞄の中からノートをとりだした。
「教授の作り話じゃなくて、本当にあったみたいだね。九州の田舎で、当時十七歳だった高校生が行方不明になって、そのまま行方知れずなんだって。事件が起こったのはちょうど今ごろの時期で、両親にはお茶を習いに行くといって隣家の茶道教室へ行ったが、それっきり行方不明。隣家では、その日は加奈さんを見ていないという」
 ふうん……。うなずきながら、わたしは自分の顔が暗くなっていくのを自覚した。
 十代の女の子の失踪事件て、怖くて、痛ましい。
 今でも時々聞いたりするし、なかには本人が自分の意志で家出したというケースもあるだろうけれど、若い女性が失踪する理由や原因って、やっぱりそこに悪い男がかかわっているケースが多いはずだ。その後、女の子たちの身の上に起こったことを想像すると、なんだかやりきれない。
「いろいろ出てきて、メモったりコピーとったりしたのがあるんだけれど……」
 彼は熱心にノートをめくった。なにかに夢中になると、すぐそれにはまりこむ性質なのだ。
「ええと、加奈さんには当時つきあっていた異性はいなかったとか、進学や就職で悩んだりしていなかったかとか、家庭に問題はなかったとか。事件は風化しても、やっぱり彼女を知っている地元の人とかからの書き込みがいろいろあったよ」
 そういうことをあれこれネットで書かれたりするのかと思うと、肌寒くなってくる。
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