6 / 15
六
しおりを挟む
カーディガンの襟に顔をすくめるようにしたわたしの動作から気持ちを読みとったのか、尚彦が弁明するようにまくしたてた。
「たぶん、十七歳っていうのが微妙なんだろうね。もっと歳が低ければ、まちがいなく事故か犯罪にまきこまれたと見なされるんだけれど、十七にもなると、当人が自分の意志で家出したっていうのもあり得るし。……悩みおおい年頃だしね」
自分だって、まだ十九になったばかりなのに尚彦はひどく大人ぶってそんなことを言う。
「最初は自分の意志で家出したとしても、後で悪い男にひっかかったり騙されたりして、逃げられない状態に陥ってしまったとかもありえるしさ」
そんな話は都会ではよく聞く。家出中に住む場所と小金欲しさに売春する少女たちの話だって、この街ではめずらしくないし、バイト帰りにも、派手な身なりの女の子たちが夜の往来でたむろしているのをよく見る。
彼女たちのなかには、やっぱり地方から出てきた家出少女や、わけあって家に帰りたくない地元の子たちもいて、その日の寝床や食事を得るために、男を誘う子たちもいるんだろうな。きっと。
同年代だけれど、田舎の普通の家庭で普通に育って、中学、高校と受験勉強にいそしんで志望大学に入学して、大学生活とアルバイトで毎日忙しく過ごしているわたしからしたら、あの子たちはまるで別世界の、それこそ宇宙人のようだ。
都会に出て一人暮らしすると決めたとき、親からは厳しく言われた。「ぜったいに水商売のアルバイトは駄目だ。もしどうしてもお金に困ったら、すぐ連絡するように」と。
頭かたい両親だけれど、わたしの心のどこかで、いたってまっとうに育てられた自分を誇らしく思っている自分がいる。
水商売だってできない育ちをしたわたしの感覚からしたら、売春なんて、とんでもない。
わたしって……保守的っていうのか、つまらない人間なのかもしれない、と思うのはこういうときだけれど、やっぱり、大学進学のためという、きちんと正しい形で都会に出て、せまくても清潔で居心地の良い自分の部屋を持ち、毎日ちゃんと大学に通って勉強して、夕方六時から十時までの四時間バイトにいそしんでいる自分は、そりゃ、いつも時間に追われてお洒落もせず、髪も染めずセミロングですませてるけれど、それでもしごく普通で健全で、まっとうだと、ひそかに誇らしい。
街角をさすらう都会の夜の蛾みたいなあの子たちが、見知らぬ男たちに身体を与えて得ている大都会での居場所を、わたしは正当でまっすぐで、誰に恥じることもなく堂々と得ているのだという、傲慢にも似た満足感。
そう。わたしは同じゼミの……山本さんだったけ、最近見ないけれど、大学生なのに勉強そっちのけで、いつもけばけばしい格好で濃い化粧しているあんな人とはちがう。
「たぶん、十七歳っていうのが微妙なんだろうね。もっと歳が低ければ、まちがいなく事故か犯罪にまきこまれたと見なされるんだけれど、十七にもなると、当人が自分の意志で家出したっていうのもあり得るし。……悩みおおい年頃だしね」
自分だって、まだ十九になったばかりなのに尚彦はひどく大人ぶってそんなことを言う。
「最初は自分の意志で家出したとしても、後で悪い男にひっかかったり騙されたりして、逃げられない状態に陥ってしまったとかもありえるしさ」
そんな話は都会ではよく聞く。家出中に住む場所と小金欲しさに売春する少女たちの話だって、この街ではめずらしくないし、バイト帰りにも、派手な身なりの女の子たちが夜の往来でたむろしているのをよく見る。
彼女たちのなかには、やっぱり地方から出てきた家出少女や、わけあって家に帰りたくない地元の子たちもいて、その日の寝床や食事を得るために、男を誘う子たちもいるんだろうな。きっと。
同年代だけれど、田舎の普通の家庭で普通に育って、中学、高校と受験勉強にいそしんで志望大学に入学して、大学生活とアルバイトで毎日忙しく過ごしているわたしからしたら、あの子たちはまるで別世界の、それこそ宇宙人のようだ。
都会に出て一人暮らしすると決めたとき、親からは厳しく言われた。「ぜったいに水商売のアルバイトは駄目だ。もしどうしてもお金に困ったら、すぐ連絡するように」と。
頭かたい両親だけれど、わたしの心のどこかで、いたってまっとうに育てられた自分を誇らしく思っている自分がいる。
水商売だってできない育ちをしたわたしの感覚からしたら、売春なんて、とんでもない。
わたしって……保守的っていうのか、つまらない人間なのかもしれない、と思うのはこういうときだけれど、やっぱり、大学進学のためという、きちんと正しい形で都会に出て、せまくても清潔で居心地の良い自分の部屋を持ち、毎日ちゃんと大学に通って勉強して、夕方六時から十時までの四時間バイトにいそしんでいる自分は、そりゃ、いつも時間に追われてお洒落もせず、髪も染めずセミロングですませてるけれど、それでもしごく普通で健全で、まっとうだと、ひそかに誇らしい。
街角をさすらう都会の夜の蛾みたいなあの子たちが、見知らぬ男たちに身体を与えて得ている大都会での居場所を、わたしは正当でまっすぐで、誰に恥じることもなく堂々と得ているのだという、傲慢にも似た満足感。
そう。わたしは同じゼミの……山本さんだったけ、最近見ないけれど、大学生なのに勉強そっちのけで、いつもけばけばしい格好で濃い化粧しているあんな人とはちがう。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる