あの花の盛りに

平坂 静音

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「菅原教授のお祖母ちゃんの家に泊めてくれるんだって。でかい家だし、客を迎えるのに慣れているから全然問題ないって」
 なんでここで菅原教授が出てくるわけ? 
「そのいわくつきの掛け軸を見に行くんだよ。ついでにその座敷も見たいし」
 そりゃ、わたしだって民俗学を学んでいるくらいだから、古い物や歴史あるものには興味がわく。ああいう話を聞いた後なら、見れるものならやっぱり見たい。でも九州なんて遠過ぎない? それに、菅原教授とも当然顔を会わすわけだし……。なんか、イヤだ。
「一日か二日は学校休めないかな? 僕の方はなんとか都合つくんだけれど」
 わたしの都合はどうなるのよ? それに交通費は自腹でしょ? 家から通ってきてる尚彦とちがって、こっちは生活費がかさむのよ。言ってやりたいのを抑えてはみたけれど、つい不満顔になっていたみたいだ。
「あ、でも春菜が無理なら、僕一人で行ってくるよ」
 あっさり笑顔で言われて、わたしは即座に答えた。
「行く行く。一回、九州へ行ってみたかったの。楽しみだね」
 尚彦だけで菅原教授に会わせられない。

 
「その掛け軸の絵って、どんなものだったんですか?」
 菅原教授に通された座敷は、さすがに地方の旧家だけあって、どことなく威厳にあふれていた。
 ちょっとかしこまった気持ちで畳の上を進むわたしとは逆に、尚彦は興味津々といった顔つきだ。本当に好きなことに打ちこんでいると他のことは目に入らないんだから。男って、みんなそんなものなのかな……?
「これよ。どうにか修繕してもらったの」
 床の間に飾られたそれは、一見、ありきたりの掛け軸に見えた。
 絵は菊の花だ。うまいのか下手なのかわたしには判らないけれど、こうして仰々しく飾ってあるんだから、お値段は高かったにちがいない。

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