あの花の盛りに

平坂 静音

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十一

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「そうなると良いか悪いかは別として、ひとつの力、エネルギーが生まれることがあるんじゃないかな? 風水とか家相なんかにも通じるものかもしれないけれど」
 言われてみたら、そうなのかもしれない。
 でも、それよりも気になったのは尚彦の妙に熱に浮かれたような様子だ。酔っているわけじゃないと思うけれど。探偵小説とかで、探偵が犯人を見つけだしたときみたいになっているのかも。
「それでさ、いろいろ調べてきたんだけれど、教授の叔母さんて、菊恵さんていうらしいんだ。それから、失踪した女子高生が最後に着ていた着物の柄って、どうにか教授に粘って思い出してもらったんだけれど、どうも菊の模様みたいだったって。まぁ、季節がちょうどその盛りだったからね。で、これは僕の推理だけど、その日、加奈さん、その失踪した女子高生は、あの座敷にその菊の模様の着物を着て入ってしまったんじゃないだろうか? 菊の絵の掛け軸が破損して、菊が欠けていたときに」
 まったく意味がわからないでいるわたしに、尚彦はじれったそうに説明した。
「つまり、さ、四君子の梅、蘭、菊、竹のなかのひとつ菊を象徴するものが破損されて欠けたとき、その場所の秩序を守るために〈菊〉が必要になった。だからあの座敷の主か霊みたいなものが、菊を求めて菊恵さんを〝向こう〟へ連れていこうとしたんじゃないだろうか? けれど菊恵さんは生命力が強く、また幸い掛け軸も早めに戻ってきたから、どうにか現世に踏みとどまれた。けれどまたその〈菊〉の掛け軸が破損されたとき、座敷の主はそれをあがなう〈菊〉が欲しくて菊模様の着物を着た加奈さんを連れていってしまった。加奈さんはきっと早く来てしまって、勝手知ったる他人の家でさっさと座敷に上がりこんでしまったのかもしれない。これだけ大きな座敷で、当時は祭りの準備や話し合いで人出入りが多かったから、見慣れない草履ぞうりが残っていても誰も気にとめなかった」
「そりゃ、あり得るかもしれないけれど」
 実はね……尚彦は声をひそめた。
「台所で、一番歳とってたお手伝いさんにこっそり訊いてきたんだ。言われてみたら、見たことのない女物の草履があったけれど、その後の失踪事件のごたごたで気に留めてる暇がなかったって」
 今だから、あんたは他所よその人だから言えるけれど……。その家政婦さんも声をひそめて囁いた。
「後になって奥さんたちも気づいて不安になったけれど、どうにも出来なくて敢えて警察にも言わなかったんだって。自分の家が少女失踪事件に関わっているなどと思われたら厭だし、これ以上警察とも係わり合いたくなかったんだろうね」
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