あの花の盛りに

平坂 静音

文字の大きさ
14 / 15

十四

しおりを挟む
「なんなんだろうねぇ、今時の子って。挨拶もせずに帰ってしまうなんて」
「仕方ないわよ、お祖母ちゃん。彼女、受けなきゃならない授業があったみたい。それに……彼と喧嘩したみたいよ」
 やれやれ、と今年八十になってもまだまだ元気な祖母は首をふった。
「本当にすみません、教授。ご迷惑ばかりかけて」
 気にしないで、とあたしは鷹揚おうように笑ってみせた。また二人で楽しみましょうね。つい昨日、あたしの中で少年から男になった教え子のはにかむような笑みを、あたしは悪趣味にも楽しんでいる。それにしても……。
 まさか本当にあたしの推理が当たるなんて。
 田中春菜は座敷に呑まれてしまったのだろうか。
 こっそり例の推理を尚彦に吹きこみ、たきつけて、硯箱のはしの梅の模様を目立たないように削って、春菜の衣服のなかに忍びこませるようにそそのかした。
 そして、彼女の春菜という名に賭けた。梅の模様のかけらと春菜の名。かつて叔母が菊恵という名前で、あやうく座敷に呑まれそうになったのなら、もしかして、とその名に賭けてしまったのだが、やはりやり過ぎだろうか。
 ……子どものくせに、人を見下し品定めするようなあの目が不快だった。あたしのみならず、一見大人しそうな顔であの娘はいつも周囲を見下していたのだ。そういう子だった。
「じゃ、春菜の荷物は僕が持って帰ります。……きっと、あいつのことだから、何気ない顔で学校へ出てきますよ」
 すでに望みの初体験をすませてしまった彼にとっては、彼女はもうどうでもいいのだろう。やはり彼も今時の若い子なのだから仕方ない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...