血塗られた王女

平坂 静音

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 このころのイングランドは大国スペインから見れば田舎の島国、二流国家のようなものでございました。先進国の貴族の家に生まれ育ち世界一流の教育を受けたと自負している娘たちは若い胸に傲慢を秘めて、イングランドを見下していたのでございます。

「イングランド人て、ビールと牛肉しか口にしない人達でしょう?」

 フランセスカがさも小馬鹿にしたように言うと、マリアが眉をひそめましたが、ベアトリックスは苦笑を浮かべます。

「国王であるヘンリー七世からして、おかゆばかり食べているらしいわね。節約のために夜は蝋燭を使うのをしぶって早めに寝られるとか」

 カテリナ様の婚約者であるアーサー王子の父上であらせられるヘンリー七世は、吝嗇りんしょくなことで有名でございました。

 もともと家柄も低く、力ずくで王位をうばいチューダー王朝をつくった簒奪者さんだつしゃ、という印象が強い梟雄きょうゆうでございました。だからこそ、イベリア半島の名門、スペイン王家の王女であるカテリナ様を王太子アーサー殿下にめとらわせ、成り上がりのチューダー王家の格をあげたいという狙いがあったのでございましょう。勿論、スペインの国力を当てにもしているのでございます。

「ああ……! 食事はビールと肉とパンだけ、それも手づかみで食べるというし、床は大理石じゃなくて未だに板で、そのうえに灯心草とうしんぐさをまいただけですって。それに、イングランド人は学問なんて田舎者のすることだって勉強することを見下しているというし」

 当時はそういう考えがまかりとおっておりました。

「そうは言うけれど、フランセスカ、あなだってそう勉強熱心というわけじゃないじゃない?」

 ベアトリックスの笑いをふくんだ指摘にフランセスカは頬を赤らめましたが、マリアは真剣な顔になりました。
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