血塗られた王女

平坂 静音

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 わたくしは中流貴族の家に生まれましたが、五歳のときに実母を病で亡くし、その後父がめとった後添のちぞいと、どうしてもうまくやれず、十一歳で家を出て侍女見習いとして宮殿に出仕することになったのでございます。わたくしが宮殿に出仕したいと申しましたとき、父の安堵した表情をわすれることができません。

 今、生家には義母の産んだ二人の子、つまりわたくしの異母妹と異母弟が両親と仲良く暮らしております。最初のうちこそはわたくしも年に一度か二度は里帰りしておりましたが、わたくしがいると妙に家の空気がぎくしゃくするのを感じて、足が遠のくようになり、もはや生家はないものと思っております。

 さすがにカテリナ様につきしたがってアルハンブラ宮殿を出るときは父が別れの挨拶に来てくれましたが、行くなと止めてくるれことはございませんでした。多少は寂しげでございましたが、その老いた顔にはやはり安心したような、肩の荷が下りたような気配が滲んでいたのをわたくしは見取ってしまったのでございます。

 それも無理はございません。わたくしが実家に帰れば、嫁にやるときに持参金がいるのでございますから。

 この時代、王侯貴族の結婚時にいちばんの問題となるのは花嫁の持参金でございましょう。現にカテリナ様の場合もごたぶんにもれず、イングランドとスペインのあいだでかなり揉めたと聞きます。

 それが払えないために生涯未婚で過ごしたり、修道院へ行くしか道がないという貴族の娘の話も珍しくはございません。うちにはまだ異母妹がおりますし、男であってもそれなりに異母弟の養育にもお金がかかります。父にしてみれば、わたくしがこのままイングランドへ行ってくれる方が経済的に助かるのでございます。
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