メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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 居間にはあかりがなく、使われていない暖炉のうえの燭台に火がともされているだけだ。現在では電気はかなり普及しており、たいていの家ではスワン電球と呼ばれる電球が室内を照らしているが、まだまだオイルランプを使うこともあれば、特別な日にキャンドルディナーを好む人も多いので、今日のような日に蝋燭が灯されていても不思議ではないが、蝋燭のともしびが作りだす妖しげな陰影に、居間はどこか異様な雰囲気に満ちてきて、コンスタンスはますます落ち着かない。

「あの……失礼します。コーヒーをお持ちしました」

「ああ、ありがとう。そこへ置いておくれ」

 ニール氏は笑みを浮かべてコンスタンスを手招きする。立っているコンスタンスからは、彼の薄くなった頭部が蝋燭のほのかな明かりに、妙に生々しく不気味に見える。

 長椅子のまえのテーブルに盆を置いた瞬間、彼の手がまたコンスタンスの手に触れてきて、あわてた。

「コンスタンス、君はいい子だねぇ」

「あ、あの?」

 右腕をひっぱられ、コンスタンスはニール氏の胸に引きよせられる形になる。

「大丈夫だよ、悪いようにはしない」

「え?」

 さすがにこれはおかしいとコンスタンスも気づいた。いそいで彼を押しのけるようにして逃れようとしたが、ニール氏の左手がコンスタンスの腰を押さえこんでくる。

「やめてください、大声出しますよ!」

 低くおさえた声で、コンスタンスは精一杯怒りをつたえた。どういうつもりで、こんなことをするのだろう。

「おや、怒った顔も可愛いね。大丈夫だよ、なにも怖いことはない」

「な、なに言っているんですか、エマが台所にいるんですよ」

「エマは入ってこないよ」

「え?」

「なんだ、聞いていないのかい? エマがお膳立ぜんだてしてくれたんだよ。君のこれから先のためになるように」

「な、なんですって?」 コンスタンスは驚愕のあまり手に力が入らない。

「いい子だ」

 さらに力強くニール氏の手がコンスタンスの腰を抱きこむように、おさえこんでくる。

「安心するといい。私が君の面倒をみてあげるからね。パキャンのドレスだって買ってあげるよ。私は服飾品をあつかう仕事を手広くやっているんだよ。なんだったら、そういう仕事を紹介してあげようか?」

 一瞬、情けない話だが、その言葉にコンスタンスはくじけそうになった。仕事は欲しい。ドレスも欲しい。だが……。

「いい子にして。私の言うとおりにすれば、うまくいくんだよ」 

 要するにニール氏は先々の面倒をみてやるから、自分の女になれと言っているのだ、ということが若くまだ世間知らずなコンスタンスにも理解でき、背に鳥肌がたった。


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