メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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「あ、あの、あの、止めてください。だ、駄目です、こんなの!」

 ニール氏の唇が頬にふれた瞬間、コンスタンスは怒りで頭が爆発しそうになった。フーリエのとき以上の嫌悪に全身が燃えた。

「やめてよ!」

 思いっきり相手を突き飛ばしていた。

「うわっ!」

 ワインのせいもあって、ニール氏がよろめき、テーブルのコーヒーカップが床に落ちて割れたが、振り返る余裕もなく急いでコンスタンスはドアに向かった。

「何しているのよ、コンスタンス?」

 ドアのすぐそばに立っているエマを見てコンスタンスは目を見開いた。

「知ってたのね? こうなることがわかっていて、わたしにあいつの相手をさせたのね?」

「大声出さないの」

 きまり悪げにエマが目をそらす。

「あ、あんたって人は……!」

 怒りに全身が燃える。仮にも、義理とはいえ、エマは娘を売ろうとしたのだ。

「ドレスが欲しくないの?」

「な、何言ってるのよ、ドレスのために、わたしに娼婦の真似をしろっていうの?」

 コンスタンスは怒りと屈辱で頬が熱くなるのを自覚した。

「ドレスだけじゃないわ。勉強だって続けられなくなるのよ」

「学院なんて辞めてやるわよ!」

「……それだけじゃないのよ」

 物分かりの悪い生徒を見る女教師のように、エマは両手を組んでコンスタンスを睨みつけてくる。

「この家にだってもう住めなくなるかもしれないのよ」

「……嘘でしょ?」

 さすがにコンスタンスは怒りも忘れて訊いていた。そこまで我が家の経済状況が悪いとは思わなかったのだ。

「嘘じゃないわよ。この家は抵当に入っているのよ。銀行にお金を払えなかったら差し押さえられてしまうのよ」

 エマの告げた銀行名は、ペリーヌの父親が頭取をつとめる銀行だ。絶望感にコンスタンスは眩暈めまいがしそうになった。

「あんたはもうお嬢様じゃないのよ。自分の食い扶持ぶちは自分で稼がなけりゃならないのよ」

「だ、だからって、だからって、あんなことしなきゃならないの? わたしは絶対嫌よ、娼婦の真似なんて」

 エマの目にけんがはしった。

「馬鹿ね、なに言っているのよ、あんたはもともと娼婦の娘なんじゃない?」
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