メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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新たな朝 一

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 夜は過ぎて、朝日が昇りはじめると、うつらうつらしていたコンスタンスは蜘蛛の糸のようにねばっこく絡みついてくる睡魔を振り払い、どうにか身を起こした。向かいの席では休憩を取っていたのか、ビュルがぐったりとしている。コンスタンスが身を起こしたのに気付いたのか、彼女も目をこする。

「ううん……、今何時?」

 寝言のように呟くビュルにコンスタンスは部屋のなかを見回し、壁際の棚にある置き時計を見つけた。

「八時過ぎよ。……わたし、帰るわ……」

「うん。気をつけてね。私ももうすこししたら帰る」

 テーブルのうえには空のグラスや食べ散らかした菓子の残りや、吸い終わった葉巻の灰が散乱している。白々とした部屋のなか、そのどこか見る者の気持ちを冷めさせる光景にコンスタンスはひどく白けた気分になり、あわてた。

 帰りたくはないが、このままここにいるわけにもいかない。

「コンスタンス、帰るのかい?」

 ドアのすぐ向こうにはカルロスが立っていた。どうやら彼は一晩中起きていたらしい。

「とにかく、一応家に戻らないと」

 とりつくろうように言うコンスタンスに、カルロスは優しく微笑ほほえみかけてくる。

「焦らなくていいからよく考えてごらん。この店で働きたかったら通いでもいいし、住み込みでもいいんだよ」

 娼婦になれという遠まわしな言い方にコンスタンは怒る気もしない。

 ほんの昨日まで持っていた乙女の誇りや矜持きょうじというものが、たった一晩でひどくすり減ってしまった気がする。こういった感情の変化を、人は堕落と呼ぶのかもしれない。

(わたしは、どんどん堕落してきているんだわ)

 けれどしょうがないじゃない、ともう一人のコンスタンスが慰めるように言う声が聞こえてくる。

 意地の悪いクラスメート、尊敬できない教師、頼りにならない親友、自分を売ろうとした継母と、それを止めるどころか後押ししようとする父親。こんな環境でどうして高潔で自尊心を持っていられるだろう。周囲の皆がコンスタンスを泥のなかへ押し込もうとしているのだ。
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