メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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 水色のブラウスに紺のスカートという質素な身なりはどう見ても野暮ったい下町の娘ではあるが、その汚れを知らぬ頬は闇にもなめらかに輝き、薄青うすあおの瞳は夜にちいさな朝を作っている。コンスタンスは内心、溜息をつきそうになった。

 彼女のもつ無垢さ、無邪気さ、生真面目さは、やはりどこかアガットを思い出させ、一抹いちまつの哀愁を感じさせるのだ。

 リジュロンやアガットの潔癖さ、純真さは、コンスタンスにとっては遠いあどけない日にどこかに置き去りにしてしまった季節を思わせるのだ。

 コンスタンスにも、かつては清らかで清潔なものだけに囲まれていた時期があった。だが、それは本当に幼い少女の時代に終わった。

(ママンが家を出たとき、わたしの幸せな少女時代は終わったんだわ)

 ひねた中年女のようなことを思いながら、コンスタンスは目の前の貧しい少女を、どこか羨望の想いをこめて見ている自分に気づく。

(なんだかわたしったら、おばさんみたいなこと考えているわね……)

 けれども家も親もうしない、これからこの大都会の荒波を身ひとつで生きねばならない今のコンスタンスの身の上からすれば、リジュロンのように貧しくとも希望や夢を持って生きている少女が、自分とはまったく違う人間に思えて羨ましくなるのだ。

(そうだわ……リジュロンには希望や夢があるんだわ。今のわたしにはまるでない)

 何かを学びたい、得たいと願い、それに向かって努力しつづけるリジュロンを見ていると、そういう目的がないコンスタンスはひどく自分がつまらないものに思えてくる。

 コンスタンスはますます妬ましい想いで一緒に隣を歩いているリジュロンを見、そしてあることがふと気になって訊ねてみた。

「ねぇ、リジュロン、あなた家族はどうしているの?」

 他愛ない質問だが、リジュロンの顔色が闇にも変わった。

「私の家族は……」

 そう彼女が言いかけたまさにそのとき、通りから足音が響いてきた。

「いたぞ、あそこだ!」

 野太い声が聞こえる。

「え?」

 リジュロンのみならずコンスタンスも驚いて声の主をさがした。

「待て、そこの娼婦!」

「え、ええ?」 リジュロンの顔がこわばった。
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