メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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「ちがいます! 洗濯屋へこのシーツを持っていくところでかちあったんです。リジュロンはその洗濯屋で働いているんです。わたしもリジュロンも娼婦じゃありません」

 コンスタンスが床に置いていた籠を指さすと、さすがに相手は考え込むような顔を見せた。

「ふうむ……」

 解ってもらえたのかと希望を持ったコンスタンスだが、かすかな安堵はべつの若い係官の言葉で吹きとんだ。

「おまえたち、やっぱり娼婦じゃないか」

「え?」

 きょとんとするコンスタンスたちではなく、若い係官は机に座っている太った男に向かっていう。

「課長代理、このシャルボニエール通りの住所は、例の……」

「なんだ、やっぱり娼婦か」

 男の濁った緑の目が光り、コンスタンスはあわてた。

「ちがいます、わたしはそこで女中をしているんです」

「女中? おまえが?」

 こんな態度や物言いを男性からされたのは、思えば生まれて初めてで、コンスタンスは今更ながらに屈辱に頬が熱くなった。

「そうです。わたし……事情があって家を出て、それで……」

「家出して娼婦になったのか?」

 まだなっていません、と怒鳴ってやりたかったが、それを言うとかえって話をややこしくしそうでコンスタンスは唇を噛みしめてこらえた。

「とにかくここに署名しろ」

 指さされた書類を見てコンスタンスは目を見張った。

 私は売春をしたことを認めます――。今後は二度と売春しません。

 黒いインクで記されたそのおぞましい文を見た瞬間、コンスタンスは怒りに顔が燃えた。

「こんなもの署名できません!」

 悔し涙が目からあふれそうになるのをコンスタンスは必死にこらえた。

「だったら帰れないぞ」

「そんな!」

 コンスタンスが抗っているのをよそに、他の女たちは次々と署名していく。なかには字が書けない女もおり、「だったら名前の代わりに×と記せ」という係官の助言にしたがっていた。この時代には、そういったことが本当にまかりとおっていたのだ。
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