メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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 そうやってぞろぞろと女たちが書類に記入して去っていくと、部屋に残ったのはコンスタンスとリジュロンと、子どもの薬を買いに来たのだと言っていた女性の三人だけになった。

「私は本当に薬を買いに来ただけなんです!」

 女性は三十代ぐらいだろうか。顔立ちも身なりも地味で、ごく平凡な家庭の主婦に見える。古びたブラウスの袖にはほころびが目立つ。

「ああ、わかった。わかるよ。子どものために金が必要なんだな。夜の街に立つ女たちは皆それぞれ事情があるもんだ。だが、我々にも事情があってね。来年は、ほら、例の祭典があるだろう? 外国からの観光客も増えるだろうから、風紀を取り締まれという上からのお達しでね。さ、悪いことは言わない。ちゃんと署名して今後行動に気をつけてくれればそれでいいんだ。子どものことが心配だろう? 早く家に帰りたいだろう?」

 優しいの冷たいのかわからない言葉を吐きつけながら、課長代理は彼女のまえに書類を突き出す。

 すすり泣きの声を響かせ、彼女は書類を受け取り、ふるえる指でペンを取った。

 見ていてコンスタンスは歯噛みしたくなったが、止めるための言葉は出ない。

「さ、そちらのマドモワゼルたちも」

「わたしは本当に娼婦じゃありません!」

 コンスタンスが叫ぶとリジュロンも叫んだ。

「私だって違います!」

「仕方ないねぇ……」

 課長代理は机の上でだらしなく太い脚を組んだ。公務員というよりも柄の悪いチンピラのようだ。

「お嬢さんたちがどうしても嫌だと言うのなら仕方ない。サン=ラザールに行くかい?」

 さすがにその言葉には二人ともぎょっとした。

 サン=ラザールとは過酷なことで知られる女子刑務所である。この名を出されると、まさに泣く子も黙る。コンスタンスは背骨がこわばるのを自覚した。

「ま、お嬢さんたちは若いし初犯のようだから、そこまではいかなくとも、ナンテール女子少年院へ行くことにかな?」

 新聞や芝居などでたまに見聞きするその名は、同じこの時代、同じ空の下にあっても一生涯自分とは縁のない、はるか彼方かなたの異郷のように思っていた所だが、その無縁の世界と思っていたおぞましい場所が、すぐ身近に迫ってきてコンスタンスは震えあがった。
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