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閉ざされた館にて 一
しおりを挟む翌朝、起きるとコンスタンスとキャロルは盥の水で顔を洗い、まず厨房へ行く。館のなかは静まり返っていて、すでに起きて朝食の準備をしているソフィーを手伝って簡単な食事を済ませた。
食堂はがらんとして三人以外誰もいない。皆昼近くまで眠っているのだ。一晩中起きているのだから無理もない。
朝食がすむと、まずは洗濯である。この時代、洗濯は重労働である。家にいたときは洗濯は家政婦か、近所の洗濯屋に頼んでいたコンスタンスにとっては、はじめての仕事だった。
庶民の家庭なら、街の共同洗濯場で使用料を払って洗うのだが、ある程度大きな家では使用人が洗う。この娼館でも、裏庭の給水場で使用人が洗うことになっている。
まずは盥で洗濯物に石鹸ソーダと、あらかじめ小瓶に用意していた灰汁をつけて、洗濯棒でたたいたり洗濯用ブラシを使ったり、ときには手で揉んだりしてからすすいだものを、洗濯機でしぼる。洗濯機といっても、手動で取っ手を廻すものだが、洗濯機を間近で見たのは初めてで、コンスタンスはまじまじと、その中型の樽に車輪をくっつけたような機械を凝視してしまう。これで水を絞る。初めてなので、なかなかうまく出来ない。
シーツやリネンのタオルなどはともかく、かすかに臭う娼婦たちの下着などを洗うときは、コンスタンスは今の自分がしていることをなるべく考えこまないようにした。
そうすると頭のなかには別のことが浮かんでくる。ラテン語の文法、新作のドレス、ワルツのメロディー、廊下を行く生徒たちのクスクス笑い。教室の窓から吹き込んでくる五月の風。今はもうすべて遠い。
「パーティーの後とかで、あまりにも量が多いときは近所の洗濯屋にも頼むこともあるけれど、今日ぐらいの量なら、あたしらで洗うことになるから」
つまり、こういう仕事を毎朝することになるのだ。コンスタンスは額に流れる汗を濡れた手でぬぐう。目がかすむのは日差しのせいだ。そういうことにしておく。
洗濯が終わるとつぎは館内の掃除である。
広間にはグラスや瓶が散乱し、花瓶の花が散ぎられて絨毯のうえに散乱していた。それらを片付けていると、ベージュ色の天鵞絨のクッションのうえに見慣れぬ物を見てコスタンスは眉をしかめた。
薄い半透明の袋のようだ。指で持ちあげてみると、やや重みがある。
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(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
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