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六
しおりを挟む「おかしいんだ、クリスチャンを見なかったかい? 彼の姿が見えないんだ」
他の客が逃げるように去って行ったなか、カルロスが困惑したように眉を寄せて訊いてきた。化粧を落として服も着替えているが、香水の匂いだけは強くのこっている。
「バスルームじゃない?」
マダムが呼んできた馭者や男たちが、どうにか倒れたままのアルファン氏を抱えて馬車へ乗せたあとである。
ガブリエルとアナでとにかくガストン氏の化粧を拭い落としたが、あまり動かすと良くないという医者の忠告でドレスを脱がすことはできず、上からシーツをかぶせて外からはドレスをまとっていることを見えないようにして運び出すのが精一杯だった。自宅で待つ家族はシーツを取ったらさぞびっくりすることだろう。
「客用のバスルームが開かないらしいわ。また、なかで酔っぱらった客が鍵閉めたまま寝込んでいるのかも」
ちょうどそのときキャロルが来て、怪訝そうな顔をしてそんなことを言った。
「クリスチャンかもしれない……」
そう言うカルロスの目はやけに心配そうだ。
カルロスは廊下の奥にある客用バスルームへと向かった。なんとなくコンスタンスたちも後を追った。
ちょうどこの頃は富裕層の家に水洗トイレが出来始めたころで、『白猫』でも昨年改築して水洗にしたそうで、匂いもそうなく清潔感にあふれている。贅沢な設備である。
だが扉をあけたカルロスの顔は青ざめている。
「そこで待っていてくれ」
さすがに中へ入ることはためらわれたコンスタンスが言われたとおりに廊下で待っていると、ドスン、ドスン、とカルロスがドアに体当たりする音が聞こえる。
「そんなことしなくても、声をかけて起こせば……」
おそらく座りこんだまま眠ってしまったのだろう、と思っていたコンスタンスだが、何度目かの激しい音のあとの沈黙に異常なものを感じて黙りこんだ。
「駄目だ……」
カルロスがぽつりと呟いた。
「……ど、どうしたの?」
コンスタンスは背が寒くなった。
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