闇より来たりし者

平坂 静音

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再生 四

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 エネルギーなどという言葉が男の子のトヨールから発せられると妙な気がする。
「エ、エネルギーって……?」
 事の異常性もわすれて私は訊ねていた。
(生命エネルギーよ。私たち、いろんな言葉知っているでしょう?)
 女の子の口調は自慢気だった。
 心なしか、最初に目に見えるようになったときより、白い靄が濃くなってきている。
(最初は血だったけれど、それだとあんまり長くは持たないし、エネルギーも弱いんだ。僕らに強い力をあたえてくれるのは、やっぱり人間の命なんだ)
「そ、それじゃ、あんたたちは、殺した相手のエネルギーを吸いとってきたの?」
 このトヨールたちは、ヴァンパイアかSF小説に出てくるエイリアンのように、人間の精のようなものを吸いとってきたのだろうか。私は以前深夜放送で見たむかしのSFホラー映画に出てくる怪物のすがたを想像していた。
 男の子の白い影は首をふった。
(残念ながら、殺した相手たちからはエネルギーは奪えないんだ。そういうところは、どういう仕組みかわからないけれど。もともと、僕たちは新種というか、変わり種のトヨールだからね) 
 怪訝な顔をしていた私に、女の子のトヨールが別の言葉をつないだ。
(私たちが得ることのできるエネルギーは、まだ世に生まれてない胎児、もしくは生まれたばかりの赤ん坊からなの。それはきっと、私たち自身が赤ん坊の遺体から作られたせいね。私たちトヨールは、死産や流産した赤ん坊から作られるものだから)
(もしかした赤ん坊はまだ意識や自我が芽生えてないから、生命エネルギーを吸いとりやすいのかもしれない)
 黙りこんでしまっている私に、男の子は平然と合理的な推測をつけたす。
(だから、私たちは最初に戸棚の引き出しから出されて眠りから覚めてから、かろうじて残っていたエネルギーをつかって、美菜という娘に血をあたえてくれるよう彼女の意識に働きかけたの)
 私は聞いて呆然としてしまった。だんだん、女の子の言葉も大人びてきている。気のせいか、最初はなよなよと見えた身体も少し大きく、しっかりとしてきた気がする。薄黒く発光していて、輪郭などがぼやけているのは相変わらずだけれど。
(そして僕らは美菜の血から新たなエネルギー得、動きまわれるようになったんだ)
(でも、この建物のなかって面白いわね。あちこち忍びこんで、いろんな人間に近づいてみたけれど、皆実に様々なことを考えているの)
(でも……人間ってば……、特に人間の若い女ってば、馬鹿だよね)
 男の子の声には嘲笑がふくまれている。彼らは人の心が読めるらしい。集団生活を送っている若い娘たちの心理なんて、はたから見たら、さぞ面白いものなのだろう。
 私は盗撮されていたようで、ますます気味悪くなった。
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