闇より来たりし者

平坂 静音

文字の大きさ
上 下
100 / 141

因果 一

しおりを挟む
「まさか、本当にそんな妖精みたいなものが存在するとは思っていなかったけれど……、やっぱり、本当だったんだ」
 友哉君は目を見開いて、興奮した顔になっている。正確に言うと、高揚しているっていうのか、妙に楽しそうだ。
「と、友哉君、トヨールのこと、知っているの?」
 私の話を本当に受け入れてくれているのが、かえって不思議でとまどった。
「ああ。最初に聞いたのは、ほんの子どもの頃だけれどね。中学生になったぐらいのときに、ネットで調べてみたんだ。あのときは、ああ、本当にこういう伝説があるんだなぁ、ぐらいに思っていたけれど……。まさか、それが本当に自分たちのルーツに関わっていたとは思わなかったね」 
「ルーツ?」
「ああ、僕にその話を聞かせてくれたのは、友之祖父ちゃんだけれど……、知らないだろうな」
「友之祖父ちゃんて……あの、お父さんたちが子どもの頃亡くなったお祖父ちゃん?」
 祖父が早くに亡くなったため、祖母は苦労して女手ひとつで父と叔父を育ててくれたのだと聞かされている。
 友哉君の目は興奮できらきら輝いている。
 子どもの頃、図書館や本屋で興味深そうな本を見つけては、好奇心いっぱいでページをめくっていたときの目だ。
「じつを言うと、お祖父ちゃんは亡くなったわけじゃなくて、お祖母ちゃんと離婚したんだ。昔は離婚なんて体裁悪かったろうし、いろいろ事情があったみたいで、お祖母ちゃんは、親父たちには、お父さんは亡くなった、って言っていたらしいんだけれど、親父や伯父さんは、それが嘘だと子どものときから知っていたって。お祖母ちゃんに合わせて、あえて何も言わなかったって」
 まったく知らなかった。
 舟木の家のことといい、いったいどれだけ私の知らない事があるんだろう? そういった、ややこしい内情は、いつも私の耳には届かない。
 まるで皆で私をつまはじきにしているみたいで、結局、最後に聞かされるのは、私、みたい。きっと、舟木の家でも、お母さんにかかわる出生の事情を、伯母や従兄弟たちは知っているんだろうな。
「じゃ、じゃあ、その友之お祖父ちゃんは生きているの?」
 私は内心ちょっと不快に思いつつも訊いてみた。
「僕が子どもの頃に亡くなったよ。当時は隣町に住んでいてね、子どもでも行こうと思ったら行けるぐらいの距離だったんだ。けっこう冒険だったけれど、それでも時々は会いに行っていたんだ。お祖父ちゃんは、後妻さんと一緒に住んでいてね、その後妻さんにも僕はけっこう可愛がられたよ」
しおりを挟む

処理中です...