闇より来たりし者

平坂 静音

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挑発 四

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 本当に恐ろしくて厄介なものに関わってしまったとつくづく思う。
 こういう形があってないような魔性の生き物たちの前に、秘密を守ったり隠し事をするなんて無理なのだ。それでも、とにかく私はミミを思いとどませる言葉をさがした。
「あ、あんたが私の身体にのり移ってしまったら、イザーはどうなるの? イザーとは離れることになるんじゃない?」
(あら、離れないわよ。私とイザーは一心同体だもの。今だって……イザーはここにいるのよ)
(呼んだ?)
 木漏れ日がななめに降りそそぐ美しい秋の空気のなかに、またひとつ黒い物が現れる。私は泣き出しそうになった。そばの公園からは、のどかに遊ぶ子どもの声が聞こえてくる。今日は土曜日なのだ。
(ねぇ、イザー、私が身体を得ても、私たちは一緒よね)
(うん。そうだよ。僕らはなんといっても、生まれたときから一緒だったんだから。離れようがないさ)
 けらけらと黒い少年の影がのけぞって笑う。
「あんたたちは、双子だったの?」
(今更何言っているのよ? さ、お喋りはもういいわ)
 影が迫ってくる。けれども、他の人には見えない。私は後ずさった。とにかく、逃げよう。
 踵を返そうかと思ったけれど、この方向へすすまないと、アレックスとの約束の場所へは行けない。私は思い切って、前進した。足に力をこめて、走る。運動は得意じゃないけれど、とにかく逃げないと。
(あっ! 待ってよ)
 まさか自分たちの方へ向かって突っ走ってくるとは思わなかったのだろう。隙を突かれたかのようにミミがとまどっているのが空気の揺れでわかる。
 私は力いっぱい走った。

 途端、そばでけたたましいクラクションが鳴り響いた。 
「きゃっ! 危ない!」
 叫んだのは、公園から帰るところだったらしい、三つぐらいの幼児の手をひいた中年の主婦だった。
 私は危うく軽トラックとぶつかるところだった。心臓が止まるかと思った。
 初老の髪の白い運転手がものすごい目で私を睨んでいる。私は恐る恐る黙礼した。
 急停止した軽トラックが行ってしまうと、主婦が、危なかったわね、気をつけて……というふうに苦笑を見せた。
 可愛らしい顔をした女の子が、おびえたように母親のクリーム色のスカートの端を小さな手でつかんでいる。けれど女の子の目線はあらぬ方をさ迷っていることに私は気づいた。その先には黒い塊が燃えているのだ。母親の方はまったく気づいていない様子だ。この子は、もしかしたら霊感があるのかもしれない。いや、よく言われるように、小さな子どもは目に見えないものに敏感なのかも。
 私は主婦と女の子にこわばった笑みを見せて、足を引きずるようにして駅の方へと向かった。

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